コンビニエンスストアはもちろん、東京都内では24時間営業している店舗やサービスが非常に多い。だが、中には「24時間営業する必要があるのか」と疑問に思ってしまうサービスも少なくない。
都心を中心に全国展開している居酒屋チェーンA(仮名)は、始発待ちの客が訪れる東京・渋谷や歌舞伎町だけでなく、郊外の店舗でも24時間営業をしている。深夜営業から撤退する居酒屋が増えている中、なぜ24時間営業にこだわるのか。その真意を探るべく、Aの広報部に取材を申し込んだが、「他社に理由を知られてしまうと不都合なので、答えられない」と拒否されてしまった。
さらに不可解なことに、深夜帯の利用客が少なそうな書店や薬局なども、24時間営業している店舗が近年増えている。営業するだけならいいが、そこには売り上げに見合わないコストがかかっているのも事実。都内で一時的に24時間営業を始めた某書店が、「従業員確保と安全面で深夜帯に営業するのはやはり難しかった」(広報担当者)と、1年ほどで通常営業に戻している。だが、潔く撤退した例はあまり多くない。リスクを度外視してまで深夜営業をする理由はどこにあるのだろうか。マーケティングコンサルタントの新井庸志氏に話を聞いた。
深夜営業は赤字
「深夜帯は売り上げが落ちる上に、従業員には深夜手当を支払わなければならなくなるので、費用対効果だけ見ると24時間営業が企業の負担になることは間違いないです。では、なぜ企業はそれをやるのかというと、それ以外の時間帯の来店効果に期待するからです」(新井氏)
新井氏によると「あの店はいつもやっていて○○がある」というイメージを近隣の消費者に刷り込ませることで、ある種の宣伝効果を狙っているとのこと。しかし、もちろんいいことばかりではないようだ。
「いくら治安の良い日本だからといって、コンビニ強盗などの犯罪の約8割が深夜の時間帯に起きています。さらに従業員の体力面も懸念しなくてはいけません。以前問題になった、すき家のワンオペ問題だって従業員に重労働を強いて、世間的に“ブラック企業”という認識を持たれてしまいました。こうまでして24時間営業をしたがる国は世界的に見ても珍しいです」(同)安全面への配慮に加え、そもそも集まりにくい深夜の従業員を確保しなければならない課題もあります。以前問題になった、すき家のワンオペ問題もこうした背景が元で起きてしまいました。その結果、世間から“ブラック企業”という認識を持たれてしまうなど大きなダメージを受けたのです。世界的に見ても、ここまで24時間営業が多い国は珍しいです」(同)
確かに、治安の問題があるにしろ、ほかの先進国ですら街ごと眠らないというのは稀有な例だ。さすが働きたがりの日本人といったところだが、その流れも徐々に変わっていっているという。
牛丼戦争とダブる24時間営業競争
「居酒屋業界を見ればわかりますが、大衆居酒屋チェーンは軒並み景気が悪い状況です。そのような中で、さらに採算に見合わない24時間営業は本当に必要なのか、という見直しの動きは徐々に増えています。似たようなケースで、吉野家などの牛丼低価格競争では、ライバル店がみんなで値下げを始めて、結局は経営的な限界がきて値上げに踏み切りました。そして1社が値上げをすれば、他社も後を追うように値上げをしていく。24時間営業も、周りがやっているから仕方なくやっているだけで、世の中が24時間営業をやめる流れになれば、『うちもやる必要がない』と判断する企業が今後は増えていくのではないでしょうか」(同)
民間だけでなく、国や自治体の政策でも同様だ。終電を気にせず深夜でもお金を使ってほしいと、都内の一部バスを昨年試験的に24時間運行して経済の活性化をもくろんだが、結局継続目安の利用者数に及ばず、あっさりと計画は頓挫した。完全な景気回復が見込まれない今、深夜は遊び歩かず家で寝るべきだ、という意識が日本人の奥底にすっかり根付いてしまっているのかもしれない。
(取材・文=A4studio)