安倍晋三政権が「一億総活躍社会」の実現に向けて打ち出した“新3本の矢”のひとつである「介護離職ゼロ」が、早くも折れかかっている。
介護離職ゼロとは、文字通り介護のための離職者をゼロにすることを指す。総務省の統計によると、介護を理由に離職や転職をする人は現在約10万人いる。安倍政権は、これを2020年初めまでにゼロにすることを打ち出した。
その具体策が「介護保険事業計画」だ。同計画では、介護施設、ケアハウス、グループホームなどの入所者数を20年度までに38万人以上増やし、さらに24時間対応の定期巡回・随時対応型サービスの充実により、施設と在宅を合わせて10万人分の介護サービス利用を拡大、加えてサービス付高齢者向け住宅の供給を2万人分増加する。これらを合計すると50万人以上になる。
しかし、特別養護老人ホーム(以下、特養)への入所を希望しながら、順番待ちをしている要介護者は、13年9月末で52万4000人もいる。計画通りに50万人以上の受け皿ができたとしても、すでに順番待ちをしている特養への入所希望者ですら賄えないのが実態だ。
その上、介護施設への入所ではなく在宅介護ということになれば、いくら24時間対応の定期巡回・随時対応型サービスがあっても家族は介護に付き添う必要があり、介護離職が発生する可能性が残る。基本的に介護離職をゼロにしようとするならば、入所希望者全員が介護施設へ入れることが前提となる。
さらに問題なのは、団塊の世代が75歳以上となる25年には、要介護者が爆発的に増加し始め、高水準が継続する可能性が高いことだ。政府は、社会福祉法人の認可基準を緩和する方向で検討を進めており、さらに、これまで特養は社会福祉法人が建物を所有することが条件となっていたが、都市部においては賃借を認めるなど、介護施設の増加を促そうとしている。
だが、いくら施設数が増加しても、介護職員数が増加しなければ十分な介護を受けることはできない。「3K(きつい、汚い、給与が安い)」といわれる介護職員は、慢性的な人員不足の状態が続いている。
厚生労働省によると、08年度から13年度までの6年間で要介護者は約130万人増加した。同時期に介護職員は約50万人増加している。この間、介護職員1人当たりの担当する要介護者は3~4人で、ほぼ横ばいの状態が続いている。しかし、団塊の世代が75歳以上となる25年までには介護職員を253万人に増やす必要があるにもかかわらず、推計では介護職員は215万2000人にとどまり、37万7000人の不足が生じると指摘されている。