新型コロナウイルスによる肺炎の国際的な拡大が続く中、その対策に力を合わせるべき大国間の足並みが乱れ始めている。ロイター通信は2日、『米大統領、新型肺炎対策に自信 中国は支援提案に回答せず』と題する記事を配信した。一方で、中国政府はアメリカ政府の支援提案の回答を現時点でスルーした。複数の外交筋によると、アメリカはアメリカ疾病管理予防センター(CDC)などによる支援を申し出たが、これに対して中国政府は難色を示しているという。
WHO緊急事態宣言前に国連代表部にロビー活動
ロイターは同記事で「トランプ米大統領は2日、新型コロナウイルスによる肺炎について、米政府の対策に自信を示すとともに、中国に支援を提案したと語った。ただ、大統領補佐官は、中国側が同提案に回答していないことを明らかにした」と報じた。
こうした中国の対応を、日本の厚生労働省関係者は次のように話す。
「間違いなくトランプ政権の支援策の中にはCDCの派遣が含まれていると思われます。現地の情勢を踏まえて、新型肺炎の感染封じ込めの助言や治療薬の共同研究を行おうとしたところ、中国政府は回答をスルーしたというのが大方の見方です。中国政府は状況を国際問題化したくないようです。特に、アメリカからの介入には難色を示しています。世界保健機関(WHO)が30日夜(日本時間31日未明)にやっと緊急事態を宣言しました。宣言の内容は大幅に中国政府に配慮したものでした。
緊急宣言は世界各国の感染症の研究者や専門家らでつくる緊急委員会で決定されたのですが、同委員やアフリカなど感染症で苦しむ国々の国連代表部に対して中国政府が外交、学術的な人脈を使ってロビー活動をしていた模様です」
封じ込めは人道的に行われているのか
CDCは1946年に創設された米連邦政府機関だ。国内外を問わず、世界的な脅威となる感染症が発生した場合、現場に駆け付けて、ウイルスの採取や宿主の特定、封じ込め対策のための調査・対策を講じている。
致死性の高いバイオセーフティレベル4のエボラ出血熱、マールブルク出血熱、天然痘などのウイルスを研究所内に保存・研究している。世界的なウイルス学の権威フランスのパスツール研究所と並ぶ存在として有名で、最新の知見や研究成果などを世界中の医学者に常時提供している。近年では、エボラ出血熱の感染地域のアフリカなどでの封じ込め活動も評価された。
いわゆるバイオハザードに対する「世界の要」の一つだが、なぜ中国政府は支援に難色を示すのか。
大手新聞社国際部記者は次のように話す。
「中国は最近、遺伝子テクノロジーの分野でロシアと強く連携しています。このテクノロジーはウイルスの構造解析や治療薬の開発などで、もっとも使われる分野です。ロシアと自国の研究能力や秘匿したい先端技術などをCDCの介入を通じて、アメリカに知られたくないのではないでしょうか。
また、新型肺炎の感染源となった武漢市の住民封じ込めは公安局の民警だけなく、武装警察なども動員されています。武警は準軍事組織ですから、仮想敵国のアメリカにどのような作戦展開をしているのか、つまびらかにしたくはないでしょう。香港のデモが鎮静化していない状況で、今回の封じ込め方法が人道的なものかどうかも問題になり得ます。
さらに中国共産党中央には、『CDCは盾』『アメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)は槍』の役割を果たし、内実は一心同体だというイメージを持っている幹部もいます。細菌・ウイルス戦に関する諜報活動が行われることをいぶかしむ声もあるようです」
どうやら国際的に深刻な事態を向かえてなお、大国間の不和はぬぐい切れないようだ。感染し苦しむ住民はたまったものではない。
(文=編集部)