1月中旬、西アフリカのトーゴで、6人の中国人女性が現地の警察に救出された。彼女たちは中国人が経営するバーで軟禁され、売春を強制させられていたというのだ。2月25日付南方都市報などが伝えた。
被害者たちは深センのマッサージ店などで働く女性で、同僚にトーゴの首都ロメで働かないかと誘われ、「月に7~8万元(約120~135万円)も稼げる。中国人が経営するマッサージ店かKTV(キャバクラ)のいずれかで、自分で選んで働けると聞いた」という。「嫌だったらすぐ帰って来ればいい」と、気軽な気持ちで渡航を決めたが、すべての手続きはインターネットのみで完了し、業者とは一度も顔を合わせなかったという。
ロメに到着するや仕事場となるバーに連れて行かれ、パスポートを差し押さえられた後で、本当の仕事内容を知ることになる。
バーの経営者は中国・上海出身の男性で、過去に中国国内で薬物売買などの罪によって6年服役していた“いわくつき”の人物。「やらなければ飯は食わせない」と売春を強制し、生理を止める薬の服用も強要していたという。
彼女たちは何度も「帰国したい」と訴えたが相手にされず、通報したくとも現地の事情がまったくわからず、言語も通じない。そんな中、ひとりがソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で状況を訴えた。するとバーの顧客だった男性がたまたまそれを見て、「持ち帰り」の名目で彼女を外に連れ出し、そのまま警察に同行してくれたのだ。こうして6名の中国人女性が救出された。バーは約1年にわたって営業しており、強制売春させられていた女性は数十人に上るといわれている。
中国のアフリカ進出に伴う闇
異国の地で、中国人に強制売春させるのはなぜか。そこにはアフリカ大陸の“中国化”がある。上海在住のジャーナリストは次のように語る。
「1990年代から中国企業のアフリカ進出が加速していますが、いまやアフリカ大陸に住む中国人はおよそ100万人といわれており、最も多いのは南アフリカの25万人で、次いでアンゴラの20万人、ナイジェリア15万人です。スーダン、ジンバブエ、マダガスカルなどにも数万人、そのほかの国にも数千人規模で住んでいるといわれています。アフリカ各国の中国人向け求人サイトなどを見ると、中国企業のアフリカ支社での月給は、財務やセールスなどのオフィスワークで20~30万円となっており、中国内陸部の同職種と比べて倍以上です。異国の地で腕試しをしようと考える中国人は、多くいるとみられています」
ただし、アフリカでの出稼ぎも一筋縄ではいかないようだ。15年12月の中新網に記載された農民の手記によると、地元の湖北省ではどんなにがんばっても月収3000元(約5万5000円)だったが、アンゴラではミキサー車のドライバーとして8000元(約13万5000円)もらえたという。しかし、野菜など新鮮な食料が乏しく、値段が中国の2倍もするうえ医療施設も整っておらず、1年で逃げ帰った。さらに中国人を狙った強盗も多く、毎日ヒヤヒヤして過ごさなければならなかったという。
「100万人も中国人がいれば、その中には前科者や犯罪者もいる。日本の中国人エステに中国人の強盗が入る事件があったように、『中国人が中国人を襲う』犯罪はアフリカでも多発しています。今回の強制売春と似た事件も多く起きています。特に『反腐敗』を掲げる習近平政権による風俗一掃で、多くの売春婦がアフリカに渡ったようですが、あまりの治安の悪さと同胞同士の騙し合いに嫌気が差し、数カ月で戻ってきています」(広東省の日系企業工場オーナー)
中国のアフリカ進出は欧米から“資源収奪”と非難されているが、企業の進出と共に黒い影が広がりつつあるようだ。
(取材・文/ルーシー市野)