精神疾患で入院中の高齢患者ら3人を虐待したとして、神戸市西区の「神出病院」の元看護助手や看護師の男計6人が準強制わいせつや暴力行為等処罰法違反の疑いで逮捕された。男性患者同士でキスをさせたり、いすに座らせて水をかけたりしたらしい。
神出病院には、30年以上前、研修医の頃に当直に行っていたことがあり、驚いた。こうした虐待が精神科病院で後を絶たないのは、背景に次の4つの構造的問題があるからだと考えられる。
1)密室性
2)告発の信憑性
3)慢性的な人手不足
4)「姥捨て山」化
まず、精神科病院、とくに閉鎖病棟の1)密室性は、深刻な問題である。自分が病気だという自覚、つまり「病識」のない患者、あるいは幻覚や妄想などの病的体験の影響で暴れる患者を入院させる関係上、一般の病院のように開放的というわけにはいかず、患者の外出や家族の面会が制限される。こういう環境によって、外部の監視の目が届きにくくなる。
とくに夜間の勤務態勢時は、ほぼ密室に近い状態になる。今回の一連の虐待も、いずれも逮捕された容疑者たち以外の職員がいなかった夜勤帯に起きている。
また、被害者が声をあげても、2)告発の信憑性が問題になることが少なくない。被害妄想や幻視のせいではないかと疑われ、まともに取り上げてもらえない。知的障害者が入所中の施設の職員からわいせつ行為を受けて、その被害を訴えても、なかなか信じてもらえないのと同じである。
今回の事件も、容疑者の1人が別の強制わいせつ事件で逮捕・起訴されており、その事件の捜査でスマートフォンに患者虐待の動画が残っていたことから発覚した。患者自身が告発の声をあげたわけでも、それが届いたわけでもない。
職員による虐待や暴力を告発できるように、各都道府県が設置している精神医療審査会に対して処遇改善請求や退院請求を行える制度もある。だが、ほとんど形骸化しているという批判の声をしばしば聞く。
3)慢性的な人手不足に陥っている精神科病院が多いのも一因だろう。とくに人里離れたところにある精神科病院では看護師を集めるのに苦労している。また、離職率の高さに悩む精神科病院も少なくない。これは、患者が指示を聞いてくれなかったり、暴言を吐いたり、ときには暴力を振るったりして、看護師のほうがいくら頑張っても報われないと感じるからだと思う。
こういう状況では、看護師を採用する際にえり好みはできない。資質に少々問題があっても雇わないと、病院が回らない。今回逮捕された容疑者らは「患者の反応が面白かった」と供述しているらしいが、患者を苦しめて面白がるのは、そもそも看護師としての適性に問題があるからだろう。
「姥捨て山」化した精神科病院
何よりも問題なのは、4)「姥捨て山」化した精神科病院があることだと思う。とくに長年入院している患者のなかには、自分が家族からも社会からも見捨てられていると感じていて、病院以外に居場所がないと思い込んでいる方もいる。
もちろん、家族の側にも言い分があるだろう。長年、暴力や暴言に悩まされてきたせいで、入院させてほっとしている家族も少なくない。そういう家族は面会にも来ないし、外泊も退院もさせない。
私自身、家族に電話して「面会に来てあげてください」とお願いしても、「私たちがこれまでどれだけ迷惑してきたか、わかっているんですか。入院費を出すのだって大変なんです」とガチャリと切られたことが何度もある。
家族に連絡がつく患者はまだ恵まれているほうで、なかには路上で暴れていたり、寝ていたりしたところを警察に保護されて、警察経由で入院した患者もいる。都心で警察に保護された患者ばかりを入院させている、田舎の病院もあると聞く。辺鄙なところにあって、そういう方法でしか入院患者を集められないからだ。
このように精神科病院での患者の虐待の背景には、いくつもの構造的問題が潜んでいる。長年精神医療に携わってきた者として恥ずかしい限りだが、一つひとつに目を向け、できる限り解決していかなければならない。
(文=片田珠美/精神科医)