こうした地籍調査が行われることにより、土地取引が円滑化され、登記手続きも簡素化される。さらに公共事業では区画整理事業や用地買収などが実施される際に、時間とコストが大幅に効率化される。特に都市部の大規模再開発など地権者が多いケースでは、地籍調査が行われているといないとでは“雲泥の差”がある。一例だが、六本木ヒルズの開発では境界の調査に4年かかり、その分の追加費用は1億円に上り、工事の開始が大きく遅れた。
地籍調査遅れる首都圏
このように、非常に正確性が高く有用性の高い「地籍調査」だが、実は登記所に管理されている地図のうち、地籍調査に基づいた地図は全体の約54%にとどまる。それ以外は「地図に準ずる図面」として「公図」となっている。しかし、この公図はいろいろと問題があるのだ。
公図の多くは明治初期の地租改正の際につくられた図面がもとになっている。当時は測量技術が未熟であったことや図面が短期間で作成されたことなどで、登記所にある図面の多くは境界や形状などが現地との整合性を欠いており、登記簿上の土地面積も正確でない場合がある。実は明治時代の地租改正時、課税額を小さくしようとして面積を過少申告するケースが多かったという。国土交通省によると、1970年から2011年までに行った地籍調査では、調査実施前と実施後で面積が26%増加したとしている。
国土から国有林および湖沼などを除いた28万6200平方キロメートルが地籍調査の対象となるのだが、15年末の地籍調査の進捗率は約51%。総じていえるのは、北海道、東北、九州、沖縄で進捗が早く、関東、中部・東海、近畿で進捗が遅れているということ。都道府県で最も進捗率が低いのは京都の8%だが、これは災害が少なく、開発が少なかったからだろう。
さて、東日本大震災の被災地だった岩手91%、宮城89%、福島61%は進捗率が高いほうだ。そして、今回の熊本地震の被災地である熊本79%、大分61%も同様に進捗率が高い。つまり、それだけ復興にあたっては早期に着手できるということ。
翻って都市部は東京22%、神奈川13%、大阪10%、愛知13%という低進捗率。大都市部で震災が発生すれば、その被害が大きいことはもとより、復興にあたっての土地の権利関係の確定だけでも、相当な時間を要することになるのは想像にかたくない。それ以上に、東京の住宅密集地などでは、自分の土地が確定できないということが起きることは間違いないだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)