一方で、採用する企業にとっても、求人詐欺をする会社だと噂されれば「ブラック企業」などとレッテルを貼られ、採用段階で良い人材の獲得が困難となることはもちろん、社会的信用の低下や売り上げ低下にもつながりかねない。労働基準法では、労働契約締結の際に、会社が労働者に対して雇用契約の内容となる労働条件を明示することを義務付けている。また、労働条件明示義務が適切に果たされない場合には、30万円以下の罰金という刑事罰が規定されている。
「求人詐欺として問題となるのは、雇用契約書が作成されておらず、労働条件について労働者の誤信を誘導した場合や、検討期間を置かずに雇用契約の締結を強要した場合です。この場合、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等特段の事情があるとして、求人票記載の内容が雇用契約における労働条件の内容となると判断されるおそれがあります」(同)
求人広告・求人票は、できる限り変更を要しない内容の労働条件を記載することは当然だ。しかし、万が一求人段階で記載した労働条件を後から変更する必要が出てきた場合には、企業は即座に労働者に十分な説明をして理解を求めるべきだろう。
企業は「採用の自由」を有しており、どの労働者と、どのような条件で雇用契約を締結するかを決定する権限がある。また、人手不足の昨今、魅惑的な求人広告で人を惹き付け、少しでも優秀な人材を集めようとする気持ちもわからなくはない。しかし、求人広告の内容と雇用契約、就労実態が大きく異なる場合、企業が支払うツケは信用も含めた大きいものになるだろう。
(文=Legal Edition)
【取材協力】
浅野英之(あさの・ひでゆき)弁護士/浅野総合法律事務所代表弁護士
労働問題・人事労務を専門的に扱う法律事務所での勤務を経て、四谷にて現在の事務所を設立、代表弁護士として活躍中。
労働問題を中心に多数の企業の顧問を務めるほか、離婚・交通事故・刑事事件といった個人のお客様のお悩み解決も得意とする。
労働事件は、労働者・使用者問わず、労働審判・団体交渉等の解決実績を豊富に有する。