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想像を絶する非常識…マスコミ記者と役人のズブズブの“賭け麻雀”接待の実態

文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

「あそこまで脇が甘くて、よく足の引っ張り合いの激しい検察庁の世界で同庁ナンバー2の東京高検検事長にまで出世したな」と不思議でしかない。東京高検検事長だった黒川弘務氏(63)。安倍政権が打ち出した検察官の定年延長を含む「改正検察庁法」がすったもんだの末、18日に今国会での法案成立断念が決まった直後、「文春砲」がぶっ放された。開いた口も塞がらない内容だ。

 21日発売の「週刊文春」(文藝春秋)によれば、1日、黒川氏は都内で産経新聞記者と朝日新聞元記者とともに「賭けマージャン」をしていたという。それも常習的だったようだ。黒川氏は辞任を表明した。「三密」の際たる麻雀を緊急事態宣言下、自粛で都内はガラ空き状態の中でやっていたことも驚きだが、雀荘ではやりにくくなったため、一人住まいの産経記者宅に集合した。記者3名はいずれも黒川氏と昵懇の間柄だったようだ。黒川氏は21日に辞表を出し、22日に辞表が承認された。

「新聞記者イコール麻雀とタバコ」は昔のことと思っていたが、いまだに続いているのかと驚いた。黒川氏と同年齢の筆者は20代の頃、カメラメーカー社員から通信社記者に転身し、岡山支局に勤務したが、県警記者クラブで仰天した。真昼間から各社の記者たちがジャラジャラと音を鳴らしてマージャンをしているのだ。

 実は単に遊んでいるというわけでもないことに気づいた。マージャンは「ライバル社の牽制」にも使われる。地元紙のキャップなどが「おい、Y社(全国紙)の記者が今晩の麻雀に来ないぞ。特ダネ追ってるはずだ。気を付けろ」など、トイレに行くふりをして後輩記者に連絡するということもある。

 記者だけでやっているのではない。後年、札幌で横路孝弘知事時代の北海道政を担当していた頃、道庁の記者クラブを夜、覗くと、広報課長が北海道新聞記者たちとマージャンをしている姿もよく見かけた。全国の役所内に設けられている記者室には、記者たちのための麻雀部屋まであったりした。しかし、こうした「記者には当たり前」だった世界も、市民の目が厳しくなり、少なくなってはいた。

 家庭麻雀でもなければ、賭けないマージャンなどまずない。ささやかな賭けは「コーヒー一杯」などもある。だが、かなり前だが、厚労省だったかの記者クラブで負けた金を払わないことに腹を立てた記者が、相手の記者にバケツで水をぶっかけて大騒動になったという恥ずべき話も耳にした。

麻雀を利用し重要なネタ元に近づく記者たち

 今回、黒川氏の場合、賭け金は数千円から2万円くらいだったという。法の番人が立派な「賭博」をしていたとされる。黒川氏はかなりの「麻雀狂」だったようで、自分で記者たちを誘っていたらしい。記者たちがそれに合わせて麻雀を嗜み、重要なネタ元に接近していた。

 そんな黒川氏について、司法修習で一期下だったという元検察官の友人の弁護士は「上ばかり見てるやつ、という評判だったなあ」と振り返る。記者と検察官の関係だが、筆者が1980年代の釧路支局時代、釧路地検の次席検事以下、検事たちと各社の記者たちが総出でスキーを楽しんだことも何度かある。今はあまり考えられないことだが、鷹揚な時代でもあった。

 今回、麻雀に参加した記者たちは黒川氏が今ほど有名人ではなかった頃からの付き合いようだ。検事長と自宅でマージャンをする仲であることを、この産経記者は自慢したくて仕方なかったのではないか。筆者を含め新聞記者などという「人種」は、自己顕示欲が強いものだ。とはいえ、当該の産経記者が仮に社内で人脈を自慢していたとしても、自分で週刊誌にリークするはずもない。その瞬間に大事な付き合いは終わってしまう。産経社内で、彼らに反感を持つ記者がリークしたのではないか。

「利用されやすい人物」だった黒川氏

 東京地検特捜部などを経て刑事局長、法務事務次官として安倍政権を支えてきた黒川氏。「40年の付き合いがある」という元東京地検検事の若狭勝弁護士はテレビで「仮に安倍政権でなくとも支えていたでしょう。そういう立場です」としていた。黒川氏は堅物ではなく、頼まれて言下に断るようなことはしない人付き合いのいい人物のようだ。

 それが好かれたのだろうが、「利用されやすい人物」にもなる。だからこそ、「お友達」にすべく「御しやすい人物」がほしかった安倍政権は定年延長をして彼を検察のトップ、次期検事総長に据えることを模索、明らかに「司法の独立」を脅かす憲法違反を犯し、1月の閣議決定でさっさと定年延長を決めてしまっていた。

 なぜ、こういうことをしたか。安倍自民党が破格の選挙費用1億5000万円を投じて「超優遇」していた広島県選出の河合案里衆院議員について、公選法違反や政治資金規正法違反などの捜査に踏み込ませた稲田伸夫現検事総長(63)が煙たかったのではないか。今後はこういうことをさせまいという魂胆だろう。

 その稲田氏。余談だが、西宮市の上ケ原小学校で筆者と同窓生である。半世紀も前の話だが、小学校までは学業優秀だったはずの筆者も太刀打ちできない超秀才だった。灘高校から東大法学部に進学したことまでは知っていたが、2年前、検事総長にまで出世したことを新聞で知った。誇りに感じ、今も就任時の朝日新聞の「人欄」の切り抜きを持っている。

 残る任期は短いが、正義感の強い稲田氏には後任の人事になどにかまわず、最後の一日まで捜査に専念して「秋霜烈日」を全うしてもらいたい。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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