阿寒湖温泉をはじめ道内各地で温泉リゾートを展開する鶴雅グループの代表でNPO法人「阿寒観光協会まちづくり推進機構」の理事長も務める大西雅之氏が、政府の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」に有識者として参加。IRを活用したビジネスツーリズムとラグジュアリーツーリズムを取り込んだ国際観光振興を提言を行うなどしている。
阿寒を舞台に統合型リゾート構想を実現させようと総力戦を展開してきたのである。それだけに今回の環境省の選定が、カジノ実現への大きな弾みになると、観光業者らは期待しているわけだ。
経済効果は最大1950億円
この統合型リゾート構想には北海道も積極的で、誘致を表明した自治体を支援する方針。道は15年にIRについての調査報告書をまとめ、拠点空港隣接型(苫小牧市)、高原リゾート型(留寿都村)、エコリゾート型(阿寒湖温泉)の3モデルで経済波及効果を試算した。それによると拠点空港隣接型が2560億円前後、高原リゾート型が1811億円、エコリゾート型が1264億円となった。
釧路市は5月に「釧路市統合型リゾート可能性調査」の結果を公表した。あずさ監査法人に委託したもので、建設の第一候補地は国設阿寒湖畔スキー場周辺で、ここに誘致した場合の経済波及効果は最大1950億円とされている。
道も自治体もIR誘致に向けて前のめりなのである。今後、国会でのIR推進法案の行方が最大のポイントになるが、環境省のお墨付きを得たことで、施設建設にあたり必要となる規制緩和の道は開けたことになる。
しかし、地元は必ずしも一枚岩ではない。カジノ誘致に対しては、ギャンブル依存症や治安悪化などを理由にした反対論がある。昨年の釧路市議会では「道の調査では3カ所でもっとも収益が見込めないのが阿寒湖となった。撤退すべきではないか」と迫る議員もいた。
共産党市議団が2年前に開催したシンポジウムでは、阿寒町の女性がこんな発言をしていた。
「地域の住民は圧倒的にカジノに反対だ。地元の温泉街のボスが積極的だから、みんな声が出せないと言っている」
地元のある住民は「国会議員もカジノ誘致に前のめりだが、それでいいのか。豊かな大自然を生かし、カジノに依存しない本質的な観光振興策を考えたことがあるのか。一時的なブームで観光客が殺到したところで、工事やオーバーユースで環境が破壊されたりしたら元も子もない」とあきれ気味だ。
アベノミクスの下で進められる、カジノを目玉にした外国人観光客の誘致と国立公園内の規制緩和。これが本当に地方の活性化につながるのか。一部の事業者の懐が潤うだけになるのではないか。冷静な判断と行動が必要になる。
(文=編集部)