「(広東省党委書記の)胡春華がこのような大胆な手に打ってでたということは、すでに彼はプリンス(習近平の後継者、次期総書記の座)の立場を失っているということだ。中国共産党体制内にあっては、後継者というものは、かつての胡錦濤にとっての習近平のように、極めて慎重に目立たないようにすることが重要だ。胡春華のこのような対応は、(習近平に対する)服従の姿勢ではなく、挑発だといえる」(人権組織「公民力量」創始人・楊建利)
この烏坎村の武力鎮圧が習近平の指示であるか、あるいは広東省党委書記の胡春華かそれ以下の地元政府の独断であるかによって見方が変わる。はっきりいえることは、5年前に村民自治容認というかたちで決着をつけた汪洋のやり方を完全に否定するものであり、現在の広東省党委書記の胡春華は、この事件をどのようなかたちで処理しても、その責任を多かれ少なかれ追及される立場にあるということである。
汪洋も胡春華も、共産主義青年団出身の「団派」と呼ばれる派閥に属し、習近平とは政治的に対立する立場である。なかでも、胡春華はその年齢や地位から、習近平が引退あるいは失脚した後、その後継者になり得るといわれており、習近平がもし長期独裁政権を目指しているとすれば、この胡春華を失脚させなければ枕を高くして寝られない。
党中央人事が激変の可能性も
習近平政権発足後、広東省では東莞市の売春産業撲滅運動に始まって、大規模な反腐敗キャンペーンがいくつも展開され、摘発された腐敗官僚の数は全国で一番多い。それは胡春華を失脚させるために、習近平サイドがその粗探しをしているからだといわれている。
その習近平の狙いを察知している胡春華は、いち早く「腐敗ゼロ容認」のスローガンを掲げ、いかにも習近平の方針に従って汚職摘発に力を入れている姿をアピールすることで、その責任追及を逃れてきた。その姿から、一部では胡春華は団派から習近平派に鞍替えした、という噂まで流れるくらいだ。
だが、私が北京消息筋から聞いたところでは、胡錦濤・李克強を中心とする団派では、胡春華を守り抜く、という目的で一致しており、そのためにたとえば汪洋が泥をかぶることも覚悟の上だという。汪洋は胡春華の前任の広東省党委書記で、今、広東省で汚職が多く摘発されれば、汪洋書記時代に汚職が見逃されていたということになり、汪洋の責任が問われかねない。