渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

トランプの「外国排斥主義」が世界に蔓延…中国の発展で食糧・資源の世界的争奪戦勃発か

ドナルド・トランプ氏(写真:AP/アフロ)

 本連載前回記事では、「中国の成長が世界の混乱を招く」という観点から、その影響について論じたが、これは、経済学者のトマス・ロバート・マルサスの『人口論』をベースに考えるとわかりやすい。

 マルサスの『人口論』とは、ごく簡単にいえば、「人口は幾何級数的に増えるが、食糧は算術級数的にしか増えない」という前提で、人口の増加に食糧など生活に必要な物資の生産が追いつかないということを示したものだ。これが、今の世界にも、少なからず当てはまるのではないだろうか。

 まず、「世界の富は限定的なものだ」と考えた時、新興国の発展は食糧や資源の爆食を招くため、結果的に先進国の富を奪うことにつながる。これは、資源価格の変動を見ても、よく表れている。前回記事でも触れた原油価格の暴騰は、中国をはじめとする新興国による急激な需要の増加が寄与したところが大きい。

 新興国の発展によって需給バランスが崩れ、原油価格の急激な上昇を生むと同時に、資源産出国が豊かになり、先進国と新興国の力関係に変化が生じた。しかし、高すぎる価格は経済的なリスク要因となり、資源バブルの崩壊に至った。これが14年夏以降の原油価格急落の背景だが、中国の景気減退も、その動きを助長した。結果的に、原油価格は最盛期の約3分の1にまで落ちている。

 また、資源バブルの崩壊は、資源で稼いでいた国の好景気を終焉させることとなった。特に大きな影響を受けたのが、中南米の国々だ。なんとかリオデジャネイロオリンピックを乗り切ったブラジルが筆頭だが、メキシコやアルゼンチンが大きな痛手を受け、またロシアも経済成長の望みを絶たれた。

 例えば、1バレル=60ドルが採算ラインの海底油田があった時、当然ながら、その採算ラインを前提に資金調達を行うことになる。しかし、1バレルが60ドルを切り、50ドルに下がると、掘れば掘るほど1バレルあたり10ドルの赤字になってしまう。そして、そんな状態が長く続けば、やがては借りたお金を返すことができなくなってしまうわけだ。

拡大路線の限界に突き当たる世界経済

 また、新興国の場合、資源は国有財産で国による債務保証などがなされているケースが多い。そのため、最終的には政府が責任を取らざるを得ないわけだが、そうした仕組み上、資源価格の下落は国家財政を圧迫することにつながり、最悪の場合はデフォルトの危機を引き起こしてしまう。

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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●公式ブログ「渡邉哲也(旧代表戸締役)の妄言

●公式メールマガジン「渡邉哲也の今世界で何が起きているのか

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