なぜならば、習氏がトランプ氏に送った祝電は極めて低姿勢であり、両者の電話会談も極めて儀礼的だったからだ。祝電では「あなたと一緒に、衝突せず、対抗せず、相互尊重の原則を堅持するよう努力したい」と述べて、「衝突せず、対抗せず」として下手に出ている。また、電話会談でも「協力(関係)こそが中米両国の唯一の正しい選択」という、いわずもがなのことをあえて強調しているからだ。この事実は、それほどまでに習氏はトランプ氏が打ち出す対中政策を、強く懸念しているということを物語っているといえまいか。
しかも、習氏は安倍政権について「右寄り」(新華社電)とみなしているのは確実で、基本的に嫌悪している。その安倍首相がトランプ氏と会って、沖縄県尖閣問題や南シナ海問題を持ち出して、「中国には気を付けたほうが良い」と言われているかもしれない。
いずれにしても、トランプ米政権下における米中関係は波乱含みであることを暗示させる。
「率直な話ができた」の意味
ところで、予定時間の倍の1時間半に及んだ安倍・トランプ会談をどう評価すればよいのかだが、肝心の安倍首相が、この会談は「非公式会談」であり「中身についてお話することは差し控える」と語っている以上、評価のしようがない。
会談後の短い安倍首相の記者会見において、ところどころ出てくるキーワードから、会談の雰囲気はわかる。たとえば、会談では「率直な話ができた」と安倍首相は語っている。「率直な」というのは、お互い腹蔵なく自らの意見を述べ合い、意見が対立したという意味だ。
どのような問題で、意見が対立したのかは想像するしかないが、トランプ氏の選挙戦での発言から考えれば、まずは在日米軍駐留経費問題だろう。
トランプ氏は今年5月、ワシントンでの集会で、「米国は引き続き日本を防衛したいと思うが、常に打ち切る準備もしなければならない。なぜ、日本は(駐留米軍経費を)100%払わないのか」と疑問を提示しているからだ。
また、同じくワシントンでの集会で、トランプ氏は「日本は、米国に数百万台の自動車を送りつけている。米国は何も日本に送れない。この貿易不均衡をみてみろ。我々が牛肉を送ると、日本は受け取ろうとしない」とも述べ、日米の貿易不均衡の実態を批判した。
このほか、トランプ氏の日本の核武装容認発言も挙げられる。「今や核の世界だ。恐らく北朝鮮も持っている。一体、日本はどうやって北朝鮮から自分を守ろうというのか。日本に(核を)持たせるというのはさほど悪いことではないと思う」というものだ。