「まず、モザイクをかけて犯人画像を公開するという行動自体がいいか悪いかといったことは別として、“万引き犯”として画像を公開することは、やはり名誉権、プライバシー権を侵害するおそれがあります。“ホームページ上で公開する行為”自体が、その人物の平穏を害するからです。
また、『3月1日までに返却か弁償をしなければ、モザイクも外す』という警告は、“自力救済”に該当するおそれもあります。日本では、法律と裁判所によって被害の回復を図るのが建前であり、個々人が犯人を捕まえて被害の回復を図ること(=自力救済)は許されていないのです。
もっとも、“緊急状況であり、今、この方法をとらないと、被害の回復は永遠に不可能となる”場合には、今回のような自力救済も許されます。
しかし今回の場合、警察に防犯カメラの画像を提供すれば犯人が見つかる可能性は高く、被害の弁償もある程度可能と考えられるため、いずれにせよ“ホームページ上で公開する行為”は違法とされる可能性があります」
防犯カメラ映像を提供しても「警察は動かない・動けない」
これに対して張谷氏は、防犯カメラの映像を見せても警察は動かなかったと明かす。
「『今回の場合、警察に防犯カメラの画像を提供すれば、犯人が見つかる可能性は高い』とのことですが、万引きが発覚した翌日の午前中には警察に被害届を提出していますし、当然、そのときに防犯カメラの映像も提出しています。
しかし、防犯カメラの映像には犯人の男が不審な動きをしている場面がはっきりと映っていたにもかかわらず、警察は『その商品を持ったまま店から出る場面も映っていないと証拠にならない』というのです。また、中古ブランドメガネ店の従業員から、同じ男がその商品を売りに来たと証言してくれていることも説明しましたが、警察の対応は変わりませんでした。犯人の顔がわかっていて、状況証拠も揃っているのに、警察はどうにも腰が重い印象を受けました。
とはいえ、決して警察の対応を非難しているというわけではありません。殺人などの重犯罪のほうに人員が割かれていて、万引き程度でしっかりとした捜査をできないことは重々承知しておりましたし、今では担当の刑事さんやそのほかの捜査関係者のみなさまに本当に感謝しています。
ただ、被害届を出した当時は、万引きは現行犯逮捕でないと警察はなかなか動けないし、警察に頼っているだけではおそらく事件は解決しないだろう、泣き寝入りになってしまうだろうという焦燥感に駆られていました。つまり、今回のケースは“自力救済”するしかないと考えて起こした行動なのです」(張谷氏)