日本で盗品を「ロンダリング」した時代
こうした犯行とは逆に、古美術品を日本で売りさばくケースもある。09年にも、仏像を日本市場で売却しようとした僧侶ら5人が横領で捕まる事件があった。
この僧侶らは、ある寺が所蔵する仏像を15世紀作の国宝級文化財だと思い込み、日本で売れば数億円になると試算。そこで所有者と売買契約を結ぶが、後になって仏像が20世紀の作と判明した。そこで僧侶らは計画を変え、仏像を盗み出すことにし、わざわざそっくりにつくった模造品とすり替えるという犯行に及んだ。だが一味の仲間割れから犯行が発覚し、摘発に至っている。
さらに少し遡ると、01年に30人近くが摘発された古美術品の密売事件もある。この密売団は、韓国で盗んだ古美術品をいったん日本へ搬出。そして日本統治時代に持ち去られた古美術品を買い戻したように見せかけることで、盗品の「ロンダリング」を行っていた。捜査によって僧侶、警官、さらに古美術団体の代表らも密売団に加わっていたことが判明している。
「ハングルの起源」もカネ絡みで風前の灯?
韓国ではこのように、国宝級の文化財が盗まれて密売やオークションで取引される例が後を絶たない。やはり昨年11月には、国宝に指定されている17世紀の医術書など文化財約3800点が警察に押収された。一連の捜査では、盗品と知りながら史料を購入・展示していた博物館館長も摘発されている。
ハングル文字の起源に関する歴史的に極めて重要な史料『訓民正音解例本・尚州本』も、カネをめぐるトラブルの真っ最中だ。
同書は08年に初めてその存在が知られた後、古美術商が所有者P氏を窃盗で告訴。P氏は無罪になったものの、同時に提起された民事裁判では古美術商に所有権が認められた。古美術商は所有権を韓国・文化財庁に譲ったが、P氏は返還を拒否。そうこうするうち、15年にP氏の自宅で火事が発生した。P氏は同書が火事で一部損傷したと明らかにものの、公開を拒んでいる。そのため現在どのような状況かさえわかっていない。
いっぽうP氏は火事の後になって、同書を数千億ウォン(数百億円)で買い取るよう政府に要求を始めた。文化財庁が接触して交渉中だが、結論は出ていない。専門家は一刻も早く適切に保管しなければ取り返しがつかなくなると、危機感を募らせている。
(文=高月靖/ジャーナリスト)