翻って、文氏は廬武鉉を師とも仰いでおり、対北融和を掲げている。再び太陽政策を採用することになれば、金正恩政権の下で北朝鮮の核兵器開発は完結し、米国を射程に入れる大陸間大道ミサイル(ICBM)も完成するという結果につながりかねない。
そうなれば、対北軍事攻撃も辞さないとの立場をとるトランプ米政権と文韓国政権の対立は必至で、日韓関係にも大きな影響が出ることが予想される。
日韓関係
次に日韓関係だが、大統領選挙期間中の文氏の言動を見る限り、関係の改善は絶望的だ。
安倍晋三首相は10日昼に首相官邸で開かれた政府与党連絡会議で、文氏が韓国大統領に就任したことについて「韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国。北朝鮮問題で連携して対処するとともに、未来志向の日韓関係を発展させていきたい」と述べているが、前述のとおり、文氏が太陽政策を掲げるのならば、日韓の対北関係での連携は噛み合わないのは自明の理だ。
また、韓国の通信社・聯合ニュースは、日韓関係について「当分は調整局面を迎える」と展望している。それは、文大統領が選挙期間中の先月28日に示した公約で、日韓関係について「歴史問題の真の反省と実用的な友好協力の同時推進」を掲げたからだ。具体的には「慰安婦合意の再交渉などを通じた、被害者が認め国民が同意することができる水準の合意の導き出し」と説明している。
また、3月にも「日本の法的な責任と公式謝罪が盛り込まれない協議は無効であり、正しい合意になるよう日本との再交渉を促す」と発言するなど、再交渉の姿勢を打ち出している。
だが、菅義偉官房長官は9日、「(慰安婦)合意は日韓両国間で約束したものというだけでなく、国際社会からも高く評価をされたものだ。日本政府は韓国側に着実な実施を求めていく」と述べて、韓国と再交渉は行わないとの立場を明確にしており、早くも両国間で軋轢が生まれている。
聯合ニュースは韓東大の朴元坤教授(国際関係学)の話として「現実的に安倍政権が合意の再交渉を受け入れる可能性は薄いため、新政権は破棄か受け入れかの分かれ道に立つ可能性が高い」としたうえで、「建設的な韓日関係の増進という大きな枠組みで、長いスパンで取り組む方向が望ましいと提言した」と報じた。
このため、「新政権では外交・安保ルートを構築しつつ対日政策も全般的に見直すことになるとみられる」との見通しを伝えており、両国関係は今後とも紆余曲折が予想される。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)