23日、安倍晋三前首相の後援会が主催する「桜を見る会」前夜祭への支出について、東京地検特捜部が、政治資金規正法違反の疑いがあるとみて安倍氏の公設第1秘書ら関係者へ任意で事情聴取を行っていることが明らかになった。
「桜を見る会」前夜祭は安倍氏が首相に就任した翌年の2013年から毎年開催され、安倍氏の支援者らが招かれていた。参加者は一人5000円の会費を支払い、多い年には700人以上もの人が参加していたが、会場となったホテルへの支払い額と会費徴収額の差額を安倍氏側が補填していた疑いが浮上していた。
安倍氏は昨年以降、国会で野党から追及を受けていたが、「後援会としての収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載の必要はない」「事務所側が補塡したという事実もまったくない」と答弁していた。
24日付毎日新聞オンライン版記事によれば、昨年、補填の有無について安倍氏から質問を受けた秘書が、補塡分の支出について政治資金収支報告書に記載していなかったため、会費以外の支出はないと答えていたという。また、25日付読売新聞オンライン版記事によれば、ホテル側から発行された補填分の領収書を安倍氏側が廃棄していた疑いがあるという。
安倍氏への事情聴取は?
ここにきて突如本格化し始めた特捜部による捜査。背景には何があるのだろうか。
「今年5月に弁護士らが、安倍氏と秘書が政治資金規正法などに違反しているとして、東京地検に告発状を提出。地検は受理するかしないかの判断を保留しており、宙ぶらりんの状態が続いているわけです。告発からすでに半年が経過し、検察としても受理するかどうかについて、今後の起訴・不起訴の展開まで見据えながら捜査しておく必要があるということでしょう。
『桜』の問題をめぐっては、捜査に踏み切らない検察の姿勢や、5月に賭け麻雀騒動で辞任した黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題にみられる“官邸と検察の癒着”批判などもあり、検察も少なからず痛手を被ってきた。“タイミングよく”という言い方はあれですが、8月に安倍首相が辞任し、『桜』への世論の関心も低下した今、検察としては“世論のガス抜き”のためにも、きちんと捜査しましたよというポーズを示す必要があったという側面もあるでしょう」(全国紙記者)
注目されるのが、安倍氏の起訴にまで発展する可能性はあるのかという点だが――。
「先行報道の影響もあり、政治家のカネをめぐる不祥事ではお決まりの“秘書が勝手にやった”という構図が、早くも国民の頭に刷り込まれ始めていますが、当然ながら秘書も安倍氏本人も安倍氏の補填への関与・事実の認識は否定するでしょうから、安倍氏が起訴されることはないという見立てが強いです。収支報告書への不記載分も5年間で計800~900万円レベルということなので、秘書だけが起訴されて数十万円くらいの罰金刑で終わりというのが、現実的な着地点でしょう。
ただ、秘書のみの事情聴取だけで捜査が終わるとは考えにくく、検察も世論の反応を考えて、かたちだけでも安倍氏本人への事情聴取は行うとみられています」(別の全国紙記者)
政治資金規正法が規定する「会計帳簿不記載罪」とは?
今回の捜査について、山岸純法律事務所の山岸純弁護士は、次のように語る。
「もし、『桜を見る会』の前夜祭が『政治資金パーティー』、すなわち元首相の後援会などの政治団体が主催する、出席者から対価をもらって飲食などを提供しその対価と経費の差額を政治資金とするパーティー(政治資金規正法8条の2)と評価できるのであれば、このパーティーの収支などを政治団体の会計帳簿に記載しなければなりません。
政治団体が『これは政治資金パーティーではありません』として会計帳簿に記載していなかった場合に、あとから『いやいや、この前夜祭はどう考えても政治資金パーティーでしょう』と判断される場合は、確かに、政治資金規正法が規定する『会計帳簿不記載罪』が成立するかもしれません(3年以下の禁固刑や50万円以下の罰金)。
しかし、それよりも、前夜祭のために集めた会費よりホテルに支払った飲食代等が多い場合は、政治団体が補填したことになるでしょうが、この場合、その差額については『政治団体が寄附をした』と考えることもできます。
この場合、公職選挙法199条の5の要件(選挙区の人への寄付であること、など)を満たすなら、50万円以下の罰金が科せられます。
去年から話題になっていたこの件が、なぜ、今になって盛り上がってきたのかは、まったくわかりません。隣の国の大統領のように、退任後、ものすごい罪に問われ有罪となるような例は日本の首長ではなかなかありません。
しかし、前首相であっても厳しく追及する姿勢をみせることで現政権の公正さをアピールするという意味では良いのかもしれません。政治的意図があるかどうか真意はわかりませんが、この件が“政局”から刑事事件とされた以上、捜査機関はしっかりと結論づけてほしいところです。
そして、結論がついたのであれば、その結論は我々よりも、ほとんどの政治家よりも、そしてマスコミよりもその問題の専門家集団が結論をつけたわけですから、『いや、おかしいはずだ』『こうあるべきだ』といった“はず、べき論”をいつまでも続けるのではなく、目の前に現存する国難に一丸となって対処することが肝要です」
(文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。