総裁選に立候補すると目されている議員は最近、安倍首相に異論を唱え始めた。首相が提案した憲法9条の改正には、石破茂氏と岸田氏が否定的な発言を行った。
加計学園問題では、それこそ麻生氏が「獣医学部新設は、獣医師のレベル低下を招く」と発言している。麻生氏と獣医師会の深い関係が報道されたこともあわせて、かなりの耳目を集めた。
安倍政権の「軋み」として伊藤氏が注目するのは、5月16日に野田毅・前税制調査会長が「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」を開き、そこに自民党の議員が60人集まったことだ。
政権に近いとされる読売新聞も、17日付の朝刊で「野田聖子・元総務会長が呼び掛け人に名を連ね、事務局を村上誠一郎・元行政改革相が務めるなど、首相と政策的に距離を置く議員が中核を占める」と解説。「党内では、『次期総裁選に意欲を示している野田聖子氏出馬への布石ではないか』(党幹部)との見方もある」とまで踏み込んだ。
「安倍首相の改憲発言には、自民党内からもさまざまな反対論が沸き上がりましたが、アベノミクスは政権における唯一の成功政策。それを検証しようというのですから、インパクトは段違いです。おまけに60人の自民党議員が集まったとなると、すでに『安倍の終わり』は始まっていると見るべきでしょう」(同)
なぜ自民党の派閥は生き残った?
それにしても、「数の力」や「キングメーカー」などの言葉が飛び交う昨今の政治ニュースは、まるで田中角栄が生きていた時代のようだ。「中選挙区制的」と形容できるだろう。
自民=与党、社会=野党の図式が固定化していた「55年体制」(1955~93年)を麻生氏が蘇らせたのだろうか。なぜ、麻生氏は時計の針を戻せたのか。
「中選挙区制の時代、自民党における派閥には3つの構成要件が必要でした。ひとつ目は、カネを集めて派閥のメンバーに配ること。2つ目は中選挙区制の下で野党だけでなく同じ自民党の候補者とも戦い、当選させること。そして、3つ目は派閥のメンバーに大臣や党幹部のポストを獲得させること、です。ところが、ひとつ目と2つ目の能力は小選挙区制で消滅しました」(同)
現在の政治で、もっとも重要なカネは政党交付金だ。自民党の場合は、当然ながら党本部が受け取り、直に議員へ配る。派閥の出る幕はない。
中選挙区制では、ひとつの選挙区から3~5人を選出するのが一般的だ。ひとつの政党から複数の候補者が立つため、最終的には「候補者vs.候補者」という人物本位の選挙になる。
対して、小選挙区制は“敗者復活”を除き、ひとつの選挙区から1人しか当選できない。政党は1人の候補者を全力で支援するため、政党本意の選挙となる。立候補者にとっては、現職であれ新人であれ、党の公認を得られるかどうかが死活問題となる。そして、公認を与えるのは党本部だ。