今の自民党本部は、カネと選挙を掌握している。議員は生殺与奪の権を握られているに等しい。派閥は無用のものとなり、党は執行部を頂点とするピラミッド型組織に生まれ変わる──はずだったのだが、現実は違った。派閥は生き残った。
「2つの要素が消えたのに、なぜ自民党で派閥が存続したのかといえば、ポストの分配機能だけは温存されたからです。小泉純一郎政権時代から、脱派閥人事がうたわれてきましたし、実際にそういう人事も行われました。ですが、完全に無視することはできなかった。派閥への配慮は、それなりに続いてきたのです」(同)
そして、究極の人事が自民党総裁=首相というポストだ。総裁選で地方票を重要視する“改革”は続いているとはいえ、現在のところは派閥の力が大きい。部下たる議員としては、派閥の長を総理総裁に押し上げることが、何よりも自分たちの利益ともなる。昔と変わらぬ「数の論理」を元に「鉄の団結」が必要になってくるというわけだ。
第2次安倍政権での麻生太郎の“変化”とは
こうして、日増しに存在感を増す麻生氏だが、今の「副総理」を見ると、伊藤氏はある「変化」を感じるという。
「以前の麻生さんは、政策通という自負もあってか『オレが、オレが』というタイプの政治家でした。ところが第2次安倍政権になってからは、隠忍自重して政権を黙々と支えているんですね。意見が対立することがあっても、今は麻生さんのほうが自分を抑えている」(同)
たとえば、麻生氏は消費税増税派として知られている。財務相だからというわけではなく、政治家として信念を持っているのだ。
一方、消費税増税を延期させた菅義偉官房長官は「政局の政治家」だ。究極的には、政策は関係ない。自民党が選挙で勝つにはどうしたらいいかということを最優先に考え、消費税増税問題に対処する。
「祖父が吉田茂という麻生さんと、横浜市議からキャリアをスタートさせた菅さんは、本質的に水と油というところがあります。ですが、今回、少なくとも表面的なレベルでは麻生さんは菅さんを立てている。ここに、私は麻生さんが政治家として成長した印象を持ちます」(同)
「オレが、オレが」という鼻息の荒さがなくなったとなると、俄然、キングメーカー説が優位に立ちそうだが、いずれにしても、大宏池会が実現しないことには絵に描いた餅にすぎない。
もともと、永田町の一部では「安倍首相は、岸田外相に政権を禅譲する予定だ」という説がささやかれていた。だが、それに大宏池会構想が新たに加わった。共に事実なら、岸田氏は首相と副総理からラブコールを送られているという“モテモテ”ぶりなのだが、今後の政局にどのような影響を与えるだろうか。