(撮影:663highland「Wikipedia」より。)
今回の不信任案提出を庄野宗務総長は、「私に不満を持つ抵抗勢力が仕掛けた政争です。そこにたまたま金融問題があり、それを利用しようとした」と、日経ビジネス(4月22日発売号)の記事で話している。背景には派閥争いが見え隠れするが、不信任案提出によって明らかになったのは、ずさんな資金運用だった。
高野山真言宗が資金運用を始めたのは2002年。新興宗教の跡地を買い取るために借りた11億円を返済するために、庄野宗務総長の前任者が基金としてためていた試算の一部を運用し始めたという。高野山真言宗の公式サイトによると、高野山真言宗と総本山の金剛峯寺が02年以降に買った金融商品は約34億6千万円。これまでの資産運用実績は利益が約16億円、損失は約6億9千万円。損益は約9億円のプラスだ。
しかし、朝日新聞によれば、08年のリーマンショックなどにより、大きな損失を被り、東日本大震災直後の2011年3月末には15億3千万円の含み損を抱えているという。その後、円安・株高が進んだ今年2月に含み損は7億円まで圧縮されたが、内局が運営する法人は高野山真言宗と金剛峯寺のほかにも3法人あり、さらに含み損が膨らむ可能性もある。
不信任案の投票で賛成票を投じた、前宗会議長の安藤尊仁住職は日経ビジネス(4月22日発売号)のインタビューに、「何かあると思われてもしかたありませんよ。58億円以上の資金を運用しながら、金融商品の細かな売買記録を出さないのも、一般社会の常識では考えられない」と指摘。不信任案の提出も、庄野務総長が危惧しているような、政争や権力争いではないと述べている。
また、22日付の朝日新聞朝刊によると、運用損益が公表された2法人でも、国内株式に連動する金融商品だけでなく、トルコのリラや南アフリカのランド、ブラジルのレアルなど、リスクの大きい新興国の通貨でも取引されていたという。そして、その原資にはお布施や賽銭など、非課税の浄財が多く含まれている。
元朝日新聞記者のジャーナリスト、柴山哲也氏はツイッターで「税が免除の浄財投資は宗教の堕落だ」と強く非難。また、22日付の朝日新聞朝刊には『お寺の経済学』の著者、中島隆信慶応大教授の「お布施を原資にした資産が大きく目減りしたのなら、説明責任がある。こだわりや欲をなくすのが仏教の教えのはず。運用に成功して財産が増えればいいわけではない。身の丈にあったことを考えるべきだ」とのコメントが掲載されている。
ただ、宗教法人が非課税の浄財を投資することは法律などで禁じられてないうえ、会計報告の義務も存在しない。また、株の売却などで得る利益も非課税だ。文化庁が示す宗教法人の「財産の管理・運用の心得4カ条」には、「投機的な資金の運用を図って、宗教法人の財産を減少させたりすることのないように」、「財産の管理者は、経理をきちんとし、会計報告も行って疑念を抱かれないように」とあるものの、罰則などはなく、具体的な規制ではないのが現状だ。
『宗教法人税制「異論」』の著者で、元国会議員秘書の佐藤芳博氏は、SAPIO(2013年3月号)で、非課税特権を逆手にとってボロ儲けする“金満教団”が跳梁跋扈していると指摘。「今こそ宗教法人の優遇税制を見直すべきだ」と提言している。しかしながら、有力な政党に献金を行っている宗教団体も多く、「政治は宗教法人法などの改正に及び腰だ」という声も根強い。
現在、真言宗高野山の内局は大手監査法人に依頼し、公認会計士による監査を受けるとともに、あらためて弁護士による検証を受け、その結果を公表する予定だという。その結果、粉飾決算や不正が見つかった場合には、庄野宗務総長は潔く辞職すると明言している。しかし、宗教法人などの非課税法人団体の税制を見直さない限り、同様の問題はまた起こるのかもしれない。
(文=blueprint)