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孫崎享「世界と日本の正体」

北朝鮮のICBM発射、米国は脅威とみなさず、逆に利益…軍事力増強や対中国圧力に利用

文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長
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北朝鮮のICBM発射、米国は脅威とみなさず、逆に利益…軍事力増強や対中国圧力に利用の画像1北朝鮮が弾道ミサイル発射 KCNAが実施の模様伝える(ビデオ画像、提供:KRT/AP/アフロ)

 北朝鮮の朝鮮中央テレビは7月4日午後3時、「金正恩朝鮮労働党委員長が大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14』の試射を命じ、成功裏に行われた」と発表した。また、北朝鮮国防科学院は「火星14は4日午前9時に発射され、最高高度2802キロに達し、39分にわたり933キロを飛行した後、日本海に設けた目標水域に正確に弾着した」と発表した。

 これに対して米国は当然、激しく反発した。ティラーソン米国務長官は4日、「米国や同盟国だけでなく、地域や世界に対する脅威が新たな段階に入ったことを示している」と述べ、同時に「世界規模の脅威を食い止めるため、世界規模の行動が必要だ」として、北朝鮮の核・ミサイル開発につながる資金源を断つために、関係国に制裁強化を求めた。今後、国際社会は、北朝鮮のミサイルおよび核兵器開発に一段と制裁を強化するかたちで進行していく。

 だが、この流れが本当に世界の安定、さらには極東の安全に貢献するかを考えてみたい。具体的には、「北朝鮮のミサイルや核兵器開発が究極的に国際社会、特に米国にどのような脅威を与えていくか」「国際社会としてどう臨むべきか」を今回は分析してみたい。

旧ソ連崩壊後の米国の利益

 そのために、まずは歴史的経緯を顧みると、まずは旧ソ連崩壊後の米国の新しい戦略の誕生にまでさかのぼる必要がある。

 旧ソ連崩壊後、米国には2つの選択があった。ひとつは米国への脅威が軽減したとして、重点を経済に移すこと、もうひとつは世界で最強になった軍を維持することである。そのいずれの道の選択も可能であった。1990年代初頭、米国は日独の経済的追い上げを受けていた。国民レベルでは米国への軍事的脅威が軽減したとして、重点を経済に移すことのほうが自然であった。

 しかし米国は国防省などが中心となり、最強になった軍を維持することを選択した。その際には、国民に対してなぜ最強の軍を維持する必要があるかを説明しなければならない。これまで存在したロシアの脅威が消滅したため、軍を維持するためには、これに代わる脅威が必要である。

 経済で追い上げる日独は、当然軍事力で米国を脅かす状況にない。中国はまだ、経済発展が十分でない状況である。

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

東京大学法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。1966年外務省入省。イギリス陸軍語学学校、ロンドン大学、モスクワ大学にてロシア語を習得し、在ソビエト連邦大使館を経て、1985年在アメリカ大使館参事官(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、1986年在イラク大使館公使、1989年在カナダ大使館公使を歴任。1991年から1993年まで総合研究開発機構へ出向。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。国際情報局長時代は各国情報機関と積極的に交流。2002年より防衛大学校教授。この間公共政策学科長、人文社会学群長を歴任。2009年3月退官。

Twitter:@magosaki_ukeru

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