論点整理
この問題について次の諸点について考察したい。
(1)報道が事実であれば、稲田氏の一連の行為や言動は何が問題なのか。
稲田氏が2月の段階で「報告はされていなかった」か、逆に事実関係が説明された上で対応を協議した会議に稲田氏が出席していたか、いずれにしても問題を含んでいる。もし、「報告されていなかった」ということであれば、大臣が国会答弁するような政治的に重要な問題について、自衛官が大臣に報告しないというシビリアン・コントロール(文民統制)上の重大な侵害が起こっていることとなる。逆に「報告を受けていた」となれば、稲田氏は国会で虚偽の答弁を行っていたこととなる。
(2)「陸自に保管されていた事実は公表しない」方針を決定した防衛省の行為は、何が問題なのか。
実はこちらの点のほうが、(1)より本質的かつ重要な問題である。
これを理解するために、南スーダンへの自衛隊派遣の経緯をみておきたい。南スーダン共和国は、2011年7月9日に北部スーダンから分離独立し、これに対して国連が平和維持活動を開始し、司令部は首都ジュバに置かれた。同年9月21日、旧民主党(現民進党)政権下で野田佳彦首相は潘基文国連事務総長(共に当時)と会談し、同年12月20日に「南スーダン国際平和協力業務の実施に関する自衛隊行動命令」が発出された。
これを受け12年1月28日、 施設部隊の1次隊の先発主力である約40名の隊員が出発し、翌2月20日、1次隊の主力となる中央即応連隊の約100人を含む約120人がジュバに到着した。
しかし、自衛隊派遣当初より、現地情勢が不安定であることが問題視されていた。日本はPKO派遣には次の5原則を持っている。これは、我が国が国際平和協力法に基づき国連平和維持活動に参加する際の基本方針のことで、以下の通りである。
<1>紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
<2>国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
<3>当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
<4>上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
<5>武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。