PKO派遣には当然、「PKOへの自衛隊の参加は憲法第9条の禁じる武力行使に当たらないのか」という問いが出てくる。これに対し、政府は「我が国が国連PKOに参加する場合においては、武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限のものに限られています。また停戦合意が破れた場合には我が国部隊は業務を中断、撤収することができる等のいわゆる参加5原則という前提を設けており、我が国が憲法で禁じた武力行使を行うことはなく、憲法に反するものではありません」としている。
PKO派遣は「停戦合意が破れる時、つまり、戦闘が起こっている時には自衛隊を撤退させる」ことが前提となっている。こうした情勢のなか、南スーダンの情勢は悪化し、首都ジュバでも戦闘が生じる状況になった。
ここで、南スーダンで戦闘が行われているかいないかが重大な問題となる。
稲田氏は17年2月8日の衆院予算委員会で「戦闘行為」の有無について、「事実行為としての殺傷行為はあったが、憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、武力衝突という言葉を使っている」と述べた。あくまでも「南スーダンで戦闘は行われていない」との立場をとっていた。
ここで現地の自衛隊の「日報」が問題となる。この日報においては、16年の7月に治安情勢が急激に悪化したことが記され、「7月8日には、30発以上の発砲音を確認、9日には、戦闘が生起した模様、およそ150人の死傷者が発生」等と記載されていたとされている。自衛隊はこの文書を破棄したとしていたが、「廃棄した」とされた後も日報は陸自内で保管されていたことが判明したのである。
一連の動きは、自衛隊の派遣を継続するために現地情勢を歪め、「戦闘が生じている」と記載した文書をなきものとしたのである。本来なら「客観的な情勢」→「政策決定」とすべきを、「政策(=南スーダンへの自衛隊派遣)維持」のために、「事実(=戦闘行為発生)隠蔽」が起こっていたのである。
(3)マスコミ各社の報道では情報源について「複数の政府関係者が明かした」とされているが、なぜ今のタイミングで一斉にこのような報道が出てきたのか。
ひとつは、まったく事務的な動きと関係している。
自衛隊内部で日報問題に関する防衛監察本部による調査結果が、7月28日にも発表されるところまできている。発表の前、当然政府内の主要な人物、部局に書類が回っていると想定される。この報告に「稲田大臣に報告がなされていた」との記載が存在する可能性がある。これは稲田氏が「報告はなかった」とする国会答弁と異なる。
ここで政府内の主要な人物、部局に一気に関心が高まった。これがリークとして広がったものとみられる。一部では自衛官が日頃より稲田氏に不満を持ち、それへの報復との説が流れているが、私はその説には加担しない。むしろ、政府内の主要な人物、部局から情報が出てきた可能性が高いとみている。
今ひとつ重要なのは、8月上旬に行われる内閣改造との関係である。今次内閣改造では、稲田氏の交代が当然視されている。安倍首相以下、稲田氏の責任問題を問わずに交代させたい。これに対して、稲田氏は責任を取って辞任すべきだという声が当然ある。これが冒頭紹介した、「来月の内閣改造で稲田氏を交代させればいい。首相がもしそう考えているなら、甘すぎる」との朝日新聞社説となっている。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)