本来、カジノもといIRはコンベンションビジネスであって、カジノ単体で考えるべきものではない。あくまでもコンベンション施設を中心に、十分な客室やパーティー会場等を備えた高級ホテル、高級レストランやケータリングサービス等がひとつの敷地内に整備され、その延長線上にコンベンションの合間に楽しむことができる娯楽施設が配置されるというのが本来あるべき姿だ。カジノ単体やカジノ中心の施設整備などは、IRではなく単なる賭博場であると言い切ってしまっていいだろう。カジノ誘致を虎視眈々と狙う地方公共団体のなかには、既存のコンベンション施設の稼働率が、カジノを誘致して併設すれば改善すると思い込んでいるところもあるようであるが、本末転倒も甚だしい。
山下埠頭から数キロの距離にある「みなとみらい地区」には、横浜市が誇るコンベンション施設、パシフィコ横浜がある。その稼働率は比較的高く、15年度の実績で、たとえば国立横浜国際会議場は79%、展示ホールは75%である。要するに、横浜市はもともと「コンベンション都市」であり、その地位を着々と築き上げてきたといっていいだろう。現在、既存のコンンベンション施設に隣接する空地で新たな施設の整備も進められている。
それならば、まさにコンベンションビジネスと、それに付随する娯楽施設の一部としてカジノ整備を行い、特定複合観光施設区域を整備するのかと思いきや、先述したように、横浜市で検討されているのはカジノの中心の観光・娯楽施設の整備のようで、あきれるばかりだ。それではこれまで築き上げてきたコンベンション都市としての地位を、自ら放棄するのに等しい。
こうしたカジノ中心の山下埠頭の再開発に、“横浜のドン”とも呼ばれる、横浜港運協会の藤木幸夫会長は、「山下埠頭の再開発は将来を見据えた、市民を豊かにするものであるべき」との考え方に立って、カジノには一切関心がない旨を横浜港運協会の定時総会で表明、真っ向から反対している。藤木会長が考える「市民を豊かにする再開発」は、カジノではなく、富裕層向けのホテルや娯楽施設の整備が中心であるようだ。
みなとみらいのコンベンション地域の最大の欠点は、コンベンションで来日した要人たちが宿泊するラグジュアリーホテルがないことだ。現状ではみんな東京のラグジュアリーホテルに行ってしまっているようだ。藤木会長の考え方は、まさにコンベンション都市・横浜に欠如しているものを補う再開発という意味で、極めてまともな考え方だといえる。
筆者があえてそれに何か付け加えるとすれば、みなとみらい地区のコンベンション施設と山下埠頭のラグジュアリーホテルをつなぐ交通の整備であろう。もちろん、短距離であるから高級なリムジンでの送迎という考え方もできるが、たとえばクリエイティブクラスといわれる富裕層は、公共交通を好む傾向があるようで、それが整備されていることを大きな理由として、米国オレゴン州ポートランドに移住する富裕層も多いといわれている。高級車での移動がダメとはいわないが、ポートランドのようにLRT(路面電車)で山下埠頭とみなとみらいを結び、港ヨコハマの景色も楽しんでもらうのもいいように思う。
さて、横浜のカジノではなくIRの行方はどうなるか。少なくとも、「カジノだけ」「カジノ中心」との考え方であれば、断固「NO!」だろう。
(文=室伏謙一/政策コンサルタント、室伏政策研究室代表)