10日に公示された衆議院議員総選挙は、22日の投開票に向けて終盤戦に突入し、街頭演説や討論会における各政党党首の発言も熱を帯びつつある。
そんななか、安倍晋三首相が公示直後の11日に出演したテレビ番組『報道ステーション』(テレビ朝日系)内での党首討論で、森友学園問題で起訴された同学園前理事長、籠池泰典被告について次のように発言したことが、波紋を呼んでいる。
「こういう詐欺をはたらく人物のつくった学校で、妻が名誉校長を引き受けたことはやっぱり問題だった。やはり、こういう人だから騙されてしまった」
行政の長である安倍首相のこの発言に対し、法律の専門家からは「司法の独立を侵す」などの批判がなされているが、この発言は何が問題なのか。弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士の山岸純氏に解説してもらった。
法律的にはあまり問題ではない?
元検事の先生が「司法の独立の観点から、あってはならない」などと大げさなことを言っていますが、首相が裁判官に対し「籠池を詐欺罪で有罪にしろ」と言ったわけでもないので、司法への圧力とか独立侵害といったことはありません。
また、仮に首相が法務大臣や検事総長に対し、「籠池の刑事裁判で、論告(求刑)を厳しくするように担当検事に伝えよ」と言ったとしても、(1)法務大臣に対しては、内閣一体性の理論から指示をする自体は法律的には可能でしょうし、(2)検事総長に対しては、法務大臣を通じれば、(1)とあわせて指揮ができ(検察庁法14条)るでしょうから、政治的にはともかく、法律的にはあまり問題ではないと思われます。
しかし、討論会の場において、籠池氏のことを「詐欺をはたらく人物」と表現することは、たとえ真実であっても、刑事上、民事上の名誉毀損の問題が発生する可能性があります。「詐欺をはたらく人物」ではなく、せめて「不当、不正な手段で学校をつくるような人物」と発言するべきであったでしょう。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)