さらに、映画『ダンケルク』(ワーナー・ブラザース)の、民間人が民間の船で兵士たちを助けに行くシーンで語られた「今、動かないと本土にドイツが襲いに来る」という台詞に動かされたという。今、動かないともっと悪化すると思ったわけだ。
参加者が無言で立っていると、NHKの中から出てきたスーツ姿の男性が「島田解説員 降板させろ」というプラカードを見て、「どうして島田さんを降板させるの?」と聞いてきた。プラカードを持つ女性は「自民党寄りだからです」と答えた。
解説員であろうが、どの政党を支持するかは自由だし、どのような意見を持つかは自由である。だが、テレビ番組の『日曜討論』で、進行役という役割にもかかわらず島田敏男解説員が自民党寄りに誘導していると批判して、参加者は「降板させろ」というプラカードを掲げていたのだ。
それから10分ほどすると、カジュアルな服装をした人がNHK敷地内から出てくるなり、デモ参加者に向かい「ありがとうございます」と声を掛け、信号を渡って去っていった。
これまで4回のNHK抗議デモをかなり詳細に見てきたが、NHK関係者(職員か否かは不明)とみられる人物がデモ参加者に「ありがとうございます」と声を掛けるのを見たのは初めてである。
NHKの幹部の“良心”に伝わるのか
デモに参加した男性は、「今度こういうデモをやるなら、自分が気に入って評価する番組名を書いたプラカードを掲げるのもいいかもしれない」と語った。今回、批判とともに「NHK職員頑張れ!」と訴えた背景には、今夏に放送された一連の『NHKスペシャル』がある。
8月13日 『731部隊の真実~エリート医学者と人体実験』
8月14日 『樺太地上戦~終戦後7日間の悲劇』
8月15日 『戦慄の記録~インパール』
これらは、いずれも優れたドキュメンタリーとして評価する声が多く、参加者たちはこのような番組をもっと制作してもらいたいという思いを抱いていた。だからこそ、官邸の介入に屈する姿勢を批判するだけでなく、職員らの奮起を促したわけである。
しかし、ここ最近の報道を見ると、北朝鮮の脅威をことさら煽り立てるような内容が多い。11月5日から数日のドナルド・トランプ米大統領訪日に関する報道にしても同様だ。武力行使も辞さずというトランプ大統領に対し、世界首脳の中でただひとり、アメリカの対応を全面的に支持すると表明した安倍首相に対する批判的な解説・報道はほとんどない。
アメリカが軍事行動を起こせば、直接的に被害を受ける韓国の反応は違うといった趣旨の報道はしている。それを指摘するなら、日本も重大な被害を受けることも視聴者に伝えるほうが、日本の公共放送としては重要ではないのか。
ようやく特別国会が開会した。2つの疑獄追及についての報道をきちんとするか否かも、今後のNHK報道を見極めるポイントだ。
今回の“静かな小さいデモ”の背景には、NHKに対する批判と期待が入り混じった感覚を持つ多くの人々がいる。その思いは、果たして番組内容に決定権を持つNHK幹部の良心を動かすのだろうか。
(文=林克明/ジャーナリスト)