文部科学省の大学設置・学校法人審議会(設置審)は9日、加計学園が運営する岡山理科大学の獣医学部新設を認めるとの答申を同省に提出した。この答申を受けて、林芳正文科相は認可について最終的な判断を下すことになる。
大学学部設置の認可権は文科省が有しており、国会承認案件ではない。しかし、今回の森友・加計学園問題は、安倍首相が縁故者に便宜を図ったとして国会でも取り上げられ、国民の注目を浴びてきた大問題であり、「答申があったから認可します」では済まされない。安倍首相による国家の私物化が最大の争点になっているからだ。
安倍首相は、設置審の結論で加計問題の幕引きをするという目論見であろう。しかし、獣医学部新設について閣議決定された「石破4条件」に合致しているのか? なぜ設置審に提出されている加計学園の獣医学部構想と市民団体が入手した設計図書の内容が違うのか? 認可前に工事を開始し完成間近だという事実がなぜ許されるのか? これらの疑問点について、国会審議が不可避である。
これだけ国を騒がせながら、安倍首相の腹心の友である加計学園の加計孝太郎理事長は雲隠れしたままで、これまで何の釈明も行っていない。安倍首相自身が語り、加計氏自身もブログで述べていた「奢り、奢られる」関係の実態はなんだったのか。場合によっては証人喚問も必要になるであろう。
森友問題めぐる会計検査院の動き
一方「もり・かけ」問題の森友問題で会計検査院(河戸光彦院長)は、国有地払い下げの金額が最大6億円過大だと国の算定に疑問を示した。しかし11月1日付当サイト記事で指摘したとおり、値下げの根拠である埋設ごみが「ない」ということがわかっており、8億円の値引き自体が不当である。その意味では、埋設ごみが無かったいという重大な事実さえ知らない会計検査院は怠慢であると指摘したが、これに応えるように11月9日、会計検査院の河戸光彦院長がNHKの取材に対し、資料がすべて入手できるわけではないなどと語り、厳正な検査結果を出すことに後ろ向きの姿勢を示している。
今年3月には、会計検査院は森友問題の調査に入ると発表していたが、値引きが過大だと把握したのは11月であり、半年以上経過している。国交省の算定方法の問題点は、すでに3~4月の国会論戦でも指摘されていたものである。小学校建設用地の3m以深にはごみがないことを示す地層図や産廃マニフェストなどの報告書の存在すら把握していなかったとすれば、会計検査院は、検査院としての役割を果たしていないことになる。
会計検査院は、解散して民間監査人が監査し、問題が生じた案件については国会議員の一定数の要望があれば特別に監査する方法を取ったほうが、よほどましではないかという声が聞こえてくる。
安倍一強体制の下では、行政をチェックする役割を持つ国会が機能停止に陥り、国のお金の使い方を調査する会計検査院まで安倍首相に“忖度”していると疑われる状況となっている。林芳正文科大臣には、英断が求められている。
国会で文科委員会開催
加計学園をめぐる設置審の答申は、1学年140人、計840人という獣医学部としては日本最大規模の定員になるため、教育・研究に支障をきたさないこと、高齢の教員が多い構成を将来正すことなどが指摘されている。これまで加計の認可の行方を問う最大の焦点であった設置審の審議は、8月中から10月下旬、そして11月初旬と再三延期されてきたが、具体的にどのような論議が行われていたのかは、文科省は審議中を理由に明らかにしてこなかった。
しかも、本来は設置審での審議と並行して国会での議論が進むはずであったが、6月以降、野党の臨時国会開催要求にもかかわらず3カ月間延ばし、ようやく開催された9月28日に安倍首相は国会冒頭で衆議院を解散し、「もり・かけ隠し」解散といわれた。結局4カ月間も国会が開かれず、11月1日から開催された特別国会では、まだ森友・加計問題に関する本格的な論議は始まっていない。
ようやく、文科委員会が加計問題をテーマとして、11月13日の週に開催されることになったが、同委員会で林文科相は、設置審での審議内容、設置審答申への文科省の考え方を明らかにし、国民の負託を受けた国会議員の意見を聞いたうえで、認可の是非について判断すべきである。
「もり・かけ隠し」解散ともいわれた先の衆院解散・総選挙では、自公与党が3分の2の議席を占める結果になったが、比例の投票数を見ると与党(自公)は約2500万票、野党(立、希、共、維、社)は、約3000万票であり、安倍内閣が国民から信任されているというにはほど遠い。
比例票約1100万票を獲得した立憲民主党の福山哲郎幹事長は、首相関与の疑惑を残し、国会審議を経ずに認可することは「許されない」と語り、前文科省事務次官の前川喜平氏も設置審は最低基準に照らして学部設置の可否を判断するだけなので、国家戦略特区の目的に適うのか特区諮問会議で議論すべきと述べている。そして自民党の二階俊博幹事長までが、「国会で疑問点について審議」が必要とし、大臣と「それに匹敵する人間の出席を」と加計氏の出席要請も示唆している。
こうしたなかで林文科相は、国会審議や加計氏への証人喚問も視野に入れた対応を求められているといえる。
認可前の建設着工、来年4月開校が最大の焦点
設置審の基準をクリアしたという答申に、加計氏は「万感胸に迫る」と感想を述べている。十数年前から学園では、動物学の研究などを重ねてきたというが、もしこのまま認可されれば、どのような問題が待ち受けているのであろうか。
最大の問題は、まだ認可もされていないのに校舎がほぼ完成しているという点である。認可を受けることを既成事実として、次のように建設を進めてきた。
・16年10月 準備のためのボーリング調査開始
・16年12月 高圧電源の工事開始
・17年1月20日 特区諮問会議は今治市への獣医学部新設を決定。そこでは18年4月の開校を明示
・17年3月3日 今治市の市議会で、学校用地に市有地(評価額36億7500万円)の無償譲渡と建設費の半額に当たる補助金最大96億円の支給決定
・17年3月31日 獣医学部設置の認可申請を提出、その翌日から本格的な工事開始
これらは加計学園の独自資金によるのではなく、今治市からの土地の無償譲渡と同市からの補助金が投入されて建設工事が進められた。通常、公的資金を受ける事業において、「認可」の決定前に建設工事に着工するということはあるのだろうか?
もし認可が下りなければ、事業者は投入した資金を回収できず、さらに自治体に大きな欠損を与えることになる。もし開校が遅れれば、実績に基づいて支給される補助金が入らなくなり、資金繰りがアウトになってしまう。したがって、公的資金の補助を受けるような事業では、認可前に工事を進めるなどということはあり得ない。
では、この認可前に建設が進められているという問題は、設置審で議論されたであろうか。また、すでに建築が進められている設計図書や世界最先端という建築物の状況を、点検しているのであろうか。認可の是非を審議する設置審で、認可を前提に進められている工事現場を見ることはおそらくあり得ない。なぜなら、設置審の気骨のある審査委員が知れば、認可の審査自体をストップしなければならないからである。
結局設置審の審査委員は、認可前に工事が進んでいたことに「見ざる」「聞かざる」「言わざる」と口をつぐんでいる。
今回の設置審は、加計側が示した建前上の学校建設や運営計画などについて審議した。その結果、当初1学年160人といっていた定数を140人に減らしたり、教職員が他大学を定年退職した者や学校を卒業したばかりの職員であるのを改善するよう指摘したという。
しかし、こうした問題がありながらも、なぜ急いで18年に開校しなければならないのか。およそ50年間も獣医学部設置が行われてこなかったなかで、今回は京都産業大学なども設置に手を挙げていたが、18年開校という無理な条件で弾き飛ばされている。つまりこの18年開校の条件によって、加計学園1校に絞る不正が行われたのである。
加計はなぜ認可を受ける前に工事を始めるなどして既成事実を積み重ねてきたのか。この疑問を国会で問いただし、明確な答えが出されない限り認可すべきではない。
文科省が学校や学部の認可権を持つのは、認可すれば国民の税金から国公私立を問わず補助金が支給されるからである。林文科相が今回のような設置審の答申を理由として認可することがあれば、国が持つ認可権を安倍首相の私的利害の下に置くことになり、法治国家の崩壊といえる。
建設費の過大見積もりの疑い
今治市は建設費の半額を県と共同で補助するとして進めてきたが、今治市の「今治加計獣医学部問題を考える会」(黒川敦彦共同代表)の調査では、その決定前に加計学園から建設費の見積書を入手した形跡がなく、総工費の金額はまったく加計学園任せだったことがわかっている。しかも入手した設計図から計算すると坪単価150万円になっており、設計図の仕様内容から見ると約半額の単価であることも専門家の鑑定によってわかっている。つまり加計は建設費の見積りを倍額に吹っ掛け、半額を補助金で入手することにより、実質ただで校舎建設を進めたことになる。
この件では、住民らが住民監査請求で問題を訴えた後、補助金支払いの支給停止を求めて行政訴訟に訴え、その第1回目の口頭弁論が12月20日に開催される。
森友・加計問題は、国が情報を出さないという裏で、廃棄物問題や建築問題などの知識を持つ市民やジャーナリストが協力して次々と事実を把握し、すでに「真っ黒」な事実が把握されつつある。安倍首相の専制独裁による強権的対応が、市民の自由な取り組みや情報公開の仕組みによって暴き出されつつある。林芳正文科相が国民の期待に応えられるかが、注目されている。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)