米中が衝突する確率は75%?
――その南シナ海では、トランプ政権が「航行の自由」作戦を展開しています。
渡邉 防衛省の「南シナ海における中国の活動」という資料を見ると、中国が13年以降に急速に南沙諸島の埋め立てを拡大していることがわかります。
また、13年の米中首脳会談において、習主席は当時のバラク・オバマ大統領に「広い太平洋には、中国とアメリカの2大国を受け入れる十分な余裕がある」と持ちかけました。「米中で太平洋を分割統治しないか」というわけです。トランプ大統領との米中首脳会談でも習主席は再び同様の発言をしているように、中国は海洋進出の野望を隠そうとしていません。
もともと、中国は「南シナ海の全域が中国の領有権である」とする「九段線」を主張しており、1980年代から南シナ海における海洋資源の権益をアピールしています。その南シナ海でアメリカが「航行の自由」作戦を展開することで、米中の軍事衝突のリスクが高まりました。
――すでに、トランプ政権は4回実施しています。
渡邉 これは、かつての米ソによる冷戦の構図が、今度は米中によって繰り返されているともいえます。ただ、旧ソ連はアメリカとの間で“プロレス”ができたため、かつての冷戦は、ある意味で長期間にわたる“出来レース”でした。換言すれば、高度な外交技術の賜物です。
しかし、中国にそのような芸当ができるかどうか。ピーター・ナヴァロ通商製造業政策局長をはじめとするアメリカの専門家たちは、口を揃えて「アメリカと中国は冷戦を続けることはできないだろう」と言っています。
また、アメリカの一部のシンクタンクなどでは「米中が衝突する確率は75%」という観測も出ているのが実情です。仮に米中が軍事衝突すれば、日本と中国の対立も深まることは確実です。
2018年に北朝鮮情勢が緊迫化する理由
――中国とアメリカは、北朝鮮への対応をめぐっても見解のずれが否めません。先の米中首脳会談でも、具体的な成果はありませんでした。
渡邉 北朝鮮問題を解決するために中国の協力が不可欠なことは間違いありません。しかし、中国は本音では現状維持を望んでいます。なぜなら、北朝鮮問題が片付けば、今度は南シナ海や米中間の貿易摩擦の問題がターゲットになるからです。
一方、北朝鮮問題の解決は習主席の政敵である上海閥および北部戦区の征伐にもつながります。その点では米中の利害が一致するため、習主席の動きが注目されているのです。
いずれにせよ、北朝鮮情勢は来年のほうが緊迫化する可能性が高いでしょう。アメリカ国防情報局は、北朝鮮が核の小型化に成功して核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させる時期を「2018年前半」とみています。これはアメリカ本土を直接攻撃され得ることになるため、これまでとは別次元の脅威です。
また、アメリカでは18年11月に中間選挙が行われます。就任時から低支持率が続くトランプ政権としては、それまでに「強いアメリカ」の姿を見せることで国威発揚につなげる可能性もあります。
中国は北朝鮮と軍事同盟を結んでおり、日本はアメリカと「100%ともにある」という姿勢です。そのため、仮に「米朝開戦」が現実になれば、それは「日中開戦」と同義といえるでしょう。
『日中開戦2018 朝鮮半島の先にある危機』 今後の安倍政権の課題だが、まずは北朝鮮の問題、そしてその後には安全保障上の問題として中国の問題がある。中国では、10月の共産党全国大会で、習近平体制がますます磐石なものとなった。そして先祖返り的に「新時代の中国の特色ある社会主義」が推し進められようとしている。今後は、政治的にも経済的にも中国との間にますます軋轢が増えるだろう。そういう意味では、すでに日中間の戦争が始まっているともいえる。 世界各国でも、ナショナリズムを掲げる政党が躍進しており、まさに冷戦時代へ巻き戻った。このような世界の大きな流れを踏まえた上で、あらゆる角度から日本と中国の現状を分析することで、戦争の可能性について探っている。