中国軍の兵力は日本の10倍?
――本書では日中の兵力比較もされていますが、中国の軍事力をどう見ていますか。
渡邉 防衛省の「日本の防衛(平成29年度版)」によると、陸上兵力は日本が14万人で中国が115万人、海上兵力は日本が47.9万トンで134隻、中国が163万トンで744隻、航空兵力は日本が400機で中国が2722機です。日本の自衛隊は陸海空合計で22.5万人ですが、中国の正規軍は218万人となっています。
数だけを見れば10倍近いですが、現代の戦争において数は問題ではありません。本書で詳述していますが、特に先進国と新興国では兵器の性能に大きな差があり、米軍をはじめとしてドローンなどの無人兵器も次々に開発されています。
そのため、前述した南シナ海での米中衝突が現実になれば、早ければ5~10時間、長くても最大5日間程度でアメリカの勝利が確定するとみられています。
――中国人民解放軍といえば、かねてコントロール不全や暴走のリスクがささやかれています。
渡邉 共産党一党独裁の中国には、いわゆる「国軍」は存在せず、解放軍は中国共産党の「私軍」でしかありません。そのため、党内の権力闘争などが影響して軍閥化してしまっており、実際にどこまで戦えるのかは不明瞭な点が多いのが実情です。
陸上部隊は強いとされていますが、その筆頭である北部戦区は北朝鮮寄りで習政権との対立が先鋭化しています。また、海軍の兵力は未知数です。空母からの発艦実験や発射実験が実施されておらず、まともな演習が行われていないのが実情です。
潜水艦についても同様です。相手に探知されてしまっては意味がないため、潜水艦は航行の際に無音であるということが大事ですが、中国の潜水艦は音がするため“丸見え”といわれています。アメリカが「航行の自由」作戦を展開した際には、追尾した中国の潜水艦がすぐに米軍に探知され、軍艦からピンガー(探信音)を打たれ続けたとされるなど、不備が多いのが特徴です。こうした欠点は、実戦になれば致命的になることが確実です。
一方、まだ概算要求の段階ですが、日本の18年度の防衛費は17年度から2.5%増の5兆2551億円となり、過去最高を記録する見通しです。6月には、麻生太郎財務相が南シナ海や尖閣諸島の問題に言及した上で「日本は予算の面も含めて防衛体制を再構築する必要があり、今後は海上防衛の予算を拡充していく必要がある」という見方を示しています。これが、今後の日本の防衛方針となるのではないでしょうか。
(構成=編集部)
『日中開戦2018 朝鮮半島の先にある危機』 今後の安倍政権の課題だが、まずは北朝鮮の問題、そしてその後には安全保障上の問題として中国の問題がある。中国では、10月の共産党全国大会で、習近平体制がますます磐石なものとなった。そして先祖返り的に「新時代の中国の特色ある社会主義」が推し進められようとしている。今後は、政治的にも経済的にも中国との間にますます軋轢が増えるだろう。そういう意味では、すでに日中間の戦争が始まっているともいえる。 世界各国でも、ナショナリズムを掲げる政党が躍進しており、まさに冷戦時代へ巻き戻った。このような世界の大きな流れを踏まえた上で、あらゆる角度から日本と中国の現状を分析することで、戦争の可能性について探っている。