弁護人に「勇夫さんが亡くなったら財産は?」と訊かれると、「そりゃ奥さんの物になる。先生の奥さんかて、そう思ってますよ」。検事に「結婚相談所でお見合いした時から、ゆくゆくは殺そうと思ってたの?」と訊かれると、「先生、私、そんな恐ろしい女に見えますか?」と言うなど饒舌だった。
検事の「被害者やご遺族には?」という問いかけには、「一日も早く死刑にしてください。それだけです」と答えた。また、「慰謝料払うとかは」という質問に、「年金生活で払えますか? また人殺せというのですか?」と怒ってみせた。男性との出会いを訊かれると「覚えてません。先生も昔の彼女のこと覚えてますか?」、「結婚相談所では?」との問いには、「わかってるんやったら、なんで訊くの」と返した。
中川綾子裁判長が供述書の署名の人定確認をすると、「私しかありません。訊くだけ野暮です」と言い、検事や裁判官に「愚問です」「知ってるのに、なんで訊くのか」などと神経を逆撫でした。女性裁判員が「反省は?」と聞くと「あなたのような若い人に言われたくない。失礼です」とまで言った。
結婚相談所で筧千佐子被告と知り合い、付き合ったある高齢男性は「デートの後、駅でハイタッチして明るく別れたから、また会えると思ったらそれきりでした」と証言。別の男性は弁護人に肉体関係を問われて「ありました」と証言した。彼女は資産家を狙っていない。会社が傾き借金で苦労した彼女は平凡でも安定した生活を求めた。ある再婚男性について「いい人で一番、幸せな時でした」とも振り返った。
「裁判員に負担をかけない」省エネ裁判
法廷では医学、化学の用語も駆使され、判決後、ある裁判員は「理解が追い付かず質問も浮かばなかった。素人にもわかりやすい言葉で説明してほしかった」と会見で語った。裁判員裁判史上、2番目の長期となった審理(135日)で、8割が辞退し、選ばれた6人中5人は女性だ。審理が延びると今後、裁判員の引き受け手が不足することを恐れたのか、裁判所は「予定進行」を最優先。取り調べの録音、録画を記録したDVDの証拠採用も却下された。認知症の鑑定は1年前なので弁護側は再鑑定を求めたが却下されるなど、証拠は絞られた。
裁判員からは「認知症の専門家が公判を傍聴し、意見を聴く機会もあれば判断は変わっていたかも」「審理時間がかかっても出せる証拠はすべて出してもらい、判断したかった」などの声が出た。ある裁判員は「控訴審ではプロの判断を仰ぎたい」と話したが、ならば裁判員は要らない。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)