12月1日に開会した東京都議会定例会で、都知事の小池百合子氏は「あらためて都民第一、都民ファーストの姿勢で都政に専念したく、ご指導ご協力をお願い申し上げます」と語った。
衆議院議員選挙の敗北を受けて、小池氏は11月14日に希望の党の代表を辞任、後継に共同代表に就任していた玉木雄一郎氏を指名した。その際も「国政については国政のみなさん方にお任せしたい」と、都政に専念する意向を示していた。
しかし、同月20日に玉木氏の要請を受けるかたちで、小池氏は特別顧問に就任した。再び“二足のわらじ”を履く姿勢は、矛盾しているのではないか。小池氏の狙いはどこにあるのか。ジャーナリストの横田一氏に聞いた。
小池氏の“死んだふり院政”がスタートする
――小池氏の代表辞任および玉木氏を後継指名した件について、どう見ていますか。
横田一氏(以下、横田) 一言で表現すると、小池氏による“死んだふり院政”がスタートしたということです。選挙後、小池氏は「都政に邁進する」とは言いましたが、実際には国政への野心をまだ抱いているのでしょう。機会を見て、再び国政に関与してくると思います。
「都政に邁進」と言いつつ希望の党の特別顧問に就任したことを「矛盾」ととらえる人もいますが、小池氏の狙いが国政にある以上、当然の選択といえます。
代表交代のたった34日前に玉木氏が共同代表に就任し、11月14日の両院議員総会で事前予告なしに小池氏が代表を辞任しました。そして、後継に玉木氏を指名し、拍手で了承されましたが、これでは民主的な手続きを経ているとはいえません。代表選を行い、投票によって選出するのが、党としての民主的なプロセスであるはずなのに、それが一切省かれ、小池氏の禅譲によって玉木氏に決まりました。
党の所属議員などにも小池氏の代表辞任の意向を一切知らせず、直前になってメディアにリーク。異論をはさませずに思い通りに決める。まさに、独裁的手法です。しかも、重要ポストである政調会長や憲法調査会長についても、“親小池”で結党メンバーの長島昭久氏や細野豪志氏が就くことが了承されています。
これには、裏取引があったとにらんでいます。少数の“親小池”メンバーだけで決定し、小池氏は代表を退く代わりに小池路線を引き継がせる。それが、小池氏の狙いでしょう。うまいやり方だと思います。
――日本維新の会は、野党でありながら自民党の補完勢力とみなされています。希望の党も同じような道を歩むのでしょうか。
横田 日本維新の会は「森友・加計学園問題(以下、モリカケ)」の審議で安倍政権を擁護したり、足立康史議員が野党議員らに対して「犯罪者」と発言したりするなど、とても野党とはみなせない存在です。
実際、解散総選挙前の野党協議のなかで日本維新の会は外されていました。そこで、希望の党が日本維新の会と選挙協力をしたことの是非について、さらに「今後は選挙や国会運営で維新と協力しない」という“決別宣言”をするのかどうか、玉木氏の共同代表就任会見で質問しました。
玉木氏の回答は、「いずれにしても、維新に限らず他党との関係は政策や中身次第ということになろうかと思います」という曖昧なものでした。
――日本維新の会との連携は続いていくということでしょうか。
横田 もともと、日本維新の会との選挙協力は小池氏の方針です。そのため、玉木氏が「小池氏の方針は間違いだった」をいう批判的総括をしない限り、今後も関係そのものは維持されていくと見ています。
長島政調会長はテレビの討論番組で「モリカケはいつまでもだらだらやる問題ではない」と発言しています。これも踏まえて、希望の党は“第2自民党”ともいえる日本維新の会との関係を清算できるのか、それをせずに自民党の補完勢力になるのか……どちらに向かうのか、今も注目しています。
玉木代表は遠隔操作で小池氏に操られるだけ?
――民進党の議員を選別する「排除リスト」について、作成者のひとりだろうとして名前の挙がっていた人物が、希望の党の事務総長に就任しました。本来であれば戦犯として退くべきだと思いますが、事務方のトップのポストです。
横田 尾崎良樹氏のことですね。党内を仕切る事務総長(事務方トップ)で、“小池院政”を実行に移す側近といえます。ちなみに、尾崎氏は産経新聞社時代、今も安倍政権擁護の記事を多数書いている阿比留瑠比記者と一緒に、安倍昭恵氏にインタビューしています。そのため、希望の党の思想、信条、理念、政策などに、尾崎氏の意向がかなり反映されていっても不思議ではないでしょう。
さらに、尾崎氏の妻で読売新聞社出身の宮地美陽子氏は、都知事の政務担当特別秘書です。夫婦で小池氏を支えているのです。この2人が小池氏の“政策実行部隊”であり、小池院政を実現するための最側近といえます。そもそも、2人の出身の新聞社自体が“安倍政権応援団”ですから、とてもほかの野党との協力は望めないでしょう。
――「排除リスト」をつくり“極右政策”を立案したと見られているのも、尾崎氏ということですか。
横田 そう見ています。社運をかけた合併のような民進解体・希望合流に大失敗をした担当幹部を登用し続けるというのは、民間企業では考えられません。
おそらく、尾崎氏は出身新聞社と同じような保守的な考えを持っている可能性が高い。小池氏の意向をもとに尾崎氏が希望の党に影響力を及ぼすというやり方は、自民党的であり、かつて内田茂氏が都議会自民党を影で操った手法と二重写しになります。玉木氏は、ただ遠隔操作で小池氏に操られるだけの存在でないことを示すのが課題になります。
私は、小池氏のことを「緑のたぬき」「女ヒトラー」と評していますが、これからの希望の党は、ただ“小池院政”が続くだけの存在です。
そして、もうひとり。以前の記事で、「選挙戦を進めたのは、小池氏と懇意なジャーナリストのU氏」と言いましたが、これは上杉隆氏です。上杉氏は著書のなかで小池氏と対談しており、親しい関係にあります。上杉氏は以前は反権力の立場と思っていたのですが、政治をビジネスとしてとらえているのかもしれません。
希望の党に“離党予備軍”が多数存在か…
――希望の党の執行部は「小池路線を引き継ぐ」と決めていても、非執行部には「野党路線に舵を切りたい」という議員も相当数います。また、今の執行部に対して不満も溜まっています。
横田 11月の共同代表選で玉木氏と戦った大串博志・元民進党政調会長を支持した議員のなかには、今の執行部に不満を募らせている人が多く、“離党予備軍”といわれています。「安倍政権の補完勢力になるのは反対」との意志を固めている議員も多く、執行部との綱引きが続いています。
以前、日本維新の会が大阪組と東京組に分裂し、東京組は旧民主党と合併して民進党が誕生しましたが、このときの情勢と似ています。
――そのような状況で、小池氏は都知事の職務をまっとうすることができるのでしょうか。
横田 都知事の仕事を地道に一つひとつこなしていけば支持率が回復する可能性はありますが、道は大変険しいです。ただ、発信力の高さは以前から評価されているところです。
たとえば、タワーマンションを建設する際に1階に保育園を併設することを義務化する条例をつくるなど、待機児童問題を非自民の立場を貫きながら解決すれば、都民の見る目も変わっていくでしょう。
――北朝鮮情勢が緊迫化するなかで、首都である東京は危機管理能力も問われます。
横田 アメリカが軍事オプションを行使することで、北朝鮮がソウルと東京を核ミサイルで報復攻撃する可能性もあります。その際、「東京都民100万人が犠牲になる」というシミュレーション(被害想定)がアメリカの大学から発表されています。
小池氏の意向を反映してか、玉木氏は代表質問で「先の日米首脳会談で北朝鮮への圧力強化で合意したことを積極的に評価します」と発言するなど、安倍政権にべったりの姿勢に見えましたが、その後の代表会見で「戦争回避をすべき」と明言しながら日本とアメリカの国益の違いを強調するなど、脱小池路線の兆しもあります。
それでも、小池氏は石原慎太郎時代と比べて都庁滞在時間は長く、顧問も任命するなど、政策さえ間違わなければ評価されるかもしれません。現在、都庁職員と小池氏が任命した顧問の間で政策の綱引きが行われていますが、どちらが正しいかはケースバイケースです。
豊洲市場移転問題に伴う追加工事でも、ゼネコン側が入札の札を入れず不調に終わるケースがあります。このままでは、工事全般が滞ることになります。今、東京はオリンピック・パラリンピック関連の工事が多く、人件費や資材費などが高騰しています。
早急に実施しなければならないもの以外、東京都発注の公共工事は一時的に凍結したり、道路や港湾などの公共工事の一部を先送りにする。そうすれば、豊洲市場関連の追加工事も適正価格に近づくのではないでしょうか。
問題は、こうした非自民的な政策を小池氏が断行できるかどうかです。着実に実行していけば、仮に国政復帰がうまくいかなかったとしても、都知事として評価される可能性はあります。
(構成=長井雄一朗/ライター)
『検証・小池都政』 小池百合子知事は都民ファーストを旗印に、さまざまな政策課題を解決するのではと期待されて都知事選に勝利した。都知事に就任して早1年、小池都政は豊洲新市場移転か築地市場存続か、築地市場跡地のカジノを含む統合型リゾート問題、五輪関連事業など公共事業削減問題、待機児童問題などで大ナタを振るわないまま、漂流を始めている。安倍政権の政策変更を迫りながら「東京から日本(国政)を変える」という道を選ぶのか。あるいは共謀罪や原発再稼働などに曖昧な態度で、国政と都政を切り分け、橋下徹・前大阪市長が立ち上げた日本維新の会のように「政権補完勢力」として安倍政権に擦り寄るのか。本書は、小池都知事に密着取材して、小池都政を検証、報告する。