国会議員の「元スタッフ」逮捕に永田町が騒然となった理由…自民党が報道機関に“圧力”か
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
先日、「秘書と詐欺師は紙一重の件」について書かせていただきましたが、またもや国会議員秘書の「お騒がせ案件」が発生してしまいました。
4月3日夜に神奈川県川崎市内で酔った勢いで女性を振り払った暴行事件で現行犯逮捕されたとして、容疑者の名前と年齢が4日の朝からニュースで流れたのです。当初は「文部科学大臣政務官・三谷英弘衆議院議員の公設秘書」の「榎並正高(36)」と報道されたので、もう私たち秘書は大騒ぎでした。
「えー! 榎並さんって、あの榎並さんだよね? 36歳だったんだね。(え! 気になるのは年齢!?)」
「榎並さんって、参議院の事務所にいたと思ったけど、三谷事務所(衆議院)だったんだ……」
「大阪の自民党議員の選挙も手伝ってたよ」
などなど、逮捕容疑の内容よりも「榎並さんの現在」が話題でした。まぁ、ちょっと変わった方のようです。
ところが、怖いのはその後です。不思議なことに、4日の22時頃になって訂正記事が流れました。榎並さんの肩書が「三谷英弘事務所の公設秘書」ではなく、「元スタッフ」だというのです。私設秘書でもなく「スタッフ」という表現に違和感がありました。
その後、インターネットの該当のニュースはすべて削除されています。「公設秘書」ではなかったので、自民党がメディアに働きかけたのかなと思います。かろうじて、有料データベースの読売新聞の朝刊には「自称国会議員秘書」として名前と年齢、暴行ではなく「客引きをする女性だと思って振り払った」こと、酒に酔っていたこと、などが書かれていました。
榎並さんは日本維新の会の議員の事務所に長くいたのですが、その議員の落選後は事務所を転々としていたようです。ご家族もいるので必死に就職活動をしても、試用期間後は正式採用には結びつかなかったということなのでしょうか。そういうストレスで、つい飲み過ぎてしまったのかもしれません。ケガをされた女性が少しでも早く回復されるよう、祈るばかりです。
蓮舫議員の公設秘書は痴漢容疑で警察沙汰に
報道が事実なら、酔っていたとはいえ女性にケガをさせるなんて議員秘書でなくてもダメダメなわけですが、神澤的にはなぜ「秘書」と嘘をついたのかの方が気になりました。
過去にも似たような例はあります。酔った勢いなのか、日頃から「秘書の肩書」をひけらかしているのかは不明ですが、警察沙汰になったときに「自分は国会議員秘書」とカミングアウトするんですね。
「会社員と言っておけばいいのでは?」と思うかもしれませんが、そんな簡単にはいきません。榎並さんのように、秘書だったことのプライドなのか、秘書と名乗ることで、無関係な元ボスの名前がさらされたり、警察が「国会議員の関係者」として余計な忖度をしたりするリスクがあることに気づかない人もいます。
わかりやすい例では、行政刷新大臣時代の蓮舫参議院議員の公設秘書(当時)の痴漢騒動があります。2010年6月、深夜に路上で10代女性に自転車で近づき、追い抜きざまにスカートをめくってお尻をさわったとして、痴漢容疑で任意同行された件です。
逮捕もされていないのに警察で「蓮舫議員の公設秘書」と名乗ったことで週刊誌沙汰になってしまい、事務所を解雇されています。このような経緯があると、永田町では仕事が見つかりません。実際、もう永田町では見かけなくなりました。
ある自民党議員の政策秘書の男性は、酔っぱらい同士のけんかで相手を殴ったとして逮捕されています。最終的には不起訴でしたが、逮捕されたときに「俺は国会議員の秘書だぞ!」と名刺を警察に渡し、「話があるなら来い!」とやってしまったのです。数日後に警察官が自宅を訪れて逮捕され、主要紙で報道されていました。秘書がボスの名前を出していきがっても、いいことなんかないんですよ。
実は、神澤も前に交通事故に遭ったときに、警察でやむなく職業を「衆議院議員秘書」と名乗りました。警察からは何度も議員名を聞かれましたが、最後まで言いませんでした。議員の名前を出したところで、ケガが治るわけでも、事故そのものがなくなるわけでもないからです。
むしろ、議員の名前を出すことで余計な忖度をされるかもしれません。そうなったら、場合によっては相手方(加害者)が脅迫と受け止める可能性もあります。
このときはけっこうなケガでしたが、加害者でなくて本当によかったと思いました。だって、ボスに迷惑がかかりますからね。とはいえ、ケガのせいでお休みをいただくことになり、別の意味での迷惑はかけてしまいましたけどね。
いずれにしろ、職務以外でボスの名前を出す人はロクな人ではありません。ましてや、秘書の経験もなく選挙を手伝ったくらいの「スタッフ」なのに秘書を名乗るなんて、もはや詐欺師ですね。
実は、こういう人はけっこういます。秘書の希望者の履歴書に「元○○事務所秘書」とあっても、事務所に確認すると「秘書として採用した事実はない。選挙を手伝ってもらったことがある程度」と言われるのも「永田町あるある」なんです。
優秀な秘書は、決して自分からひけらかすようなことはしません。秘書もひとつの職業にすぎず、腹黒い人もいれば、あんまり頭がよくない人もいます。もちろん高い職業意識を持ってがんばっている秘書仲間もたくさんいますが、詐欺師のような人物も多いので、お気をつけください。
特に、お金を要求されたら怪しいと思ってくださいね。国会議員は陳情などでも実費以外はいただきません。「手数料」とか言ってきたら、ほぼ100%インチキですよ。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。