平塚 ストーカー行為への罰則が、最も重くても保護観察処分であることを見越して行為を犯してくるので、警察はだいたい「逃げるしかない」と言ってきます。難しいのは、例えばある県から東京都内に通勤する人が、都内でストーカー被害に遭った場合です。本人の住所地の警察署が担当になるのですが、その警察署が警視庁管内である東京都に出向いて動いてくれるとは限りません。
–被害に遭った場合、どんな解決の手段が有効なのでしょうか?
平塚 ともかく会わないこと、無視すること。これに尽きます。法的に解決しようとするとうまくいきません。例えば、被害者の代理人となった弁護士が加害者に対して折衝すると、加害者は「弁護士を通して相手は自分にコミュニケーションを取ってくれている」、つまり「自分の存在を認めている」という感情を持ってしまう。当然、恋愛をあきらめてくれません。しかし、無視し続ければ、やがて恋愛の対象を変更します。特にルックスの良い女性は、自分が男性受けする自信を持っているため、あきらめて他の男性にアプローチする傾向が強い。
●取引先からのストーカー被害
–平塚さんが手がけたトラブルの事例を、お話しいただけますか?
平塚 あるソフトウェア開発会社の例ですが、この会社の20代のイケメン営業マンが担当した40代の女性社長が、ソフトをどんどん購入してくれました。2人は何度か食事をしただけでなく、出張先が同じ地域であるときに、営業マンが女性社長の車に乗せてもらったりしていました。肉体関係はありませんでしたが、ある時、営業マンは恋愛感情を持たれていてヤバイと気づいたのです。そして、女性社長からの食事の誘いを断ったら、連日何十本もの電話が営業マンに入るようになって、上司に相談しました。
–上司は営業マンと女性社長の間に入って、仲裁をしたのですか?
平塚 いえ、上司は社長と法務部長に報告して、会社は弁護士と警察に相談したのですが、女性社長に電話で注意をしたことが解決を遠のかせてしまったのです。そこで、法務部長から私に相談が入りました。私は、女性社長が美人だったので、「時間がたてば他の男性に気持ちが移るから、会社として無視するよう」助言したところ、しばらくして電話が入らなくなりました。
–その営業マンは、よく退職に追い込まれずに済みましたね。なぜ彼は、会社にかばってもらえたのですか?
平塚 会社に、ストーカー被害への理解があったからです。その会社の社長も、かつてストーカー被害に遭った経験があったため、営業マンに理解を示してくれたのです。社員がストーカーに攻められていても会社が理解を示さなければ、9割は退職してしまいます。先ほど申し上げたように、ストーカーは弁護士が法律で処理しようとしてもうまくいきません。会社には社員を守るだけでなく、常にアンテナを張って、ストーカー対策を社員教育などに取り入れることが望まれます。
–ありがとうございました。
(文=編集部)