大乱闘事件
北朝鮮のアイスホッケーといえば、思い出すことがある。1990年、札幌での冬季アジア大会で筆者はアイスホッケーを取材していた。この時、南北は個別に出場したが、対戦時は友好的な応援合戦も話題になった。
そして事件は日本対北朝鮮戦で起きた。試合が始まって間もなく大乱闘になった。男子アイスホッケーでは乱闘はつきものだが、殴る蹴るのレベルではない。北朝鮮選手は、倒れている日本選手を鋭いスケートの刃で踏みつけたり、柄を下へ向けて両手でスティックを握りしめ、上から体重をかけて激しく顔や体に突き下ろしてもいた。血だらけの梶川文彦主将(国土計画)、鈴木宣夫(王子製紙)ら主力選手も呆然自失。記者席では「こんなのただの反則じゃない。刑事事件だ。警察呼べーっ」と叫ぶ記者がいたほどだ。見ていて「日本選手を半殺しにすれば母国で英雄になれると彼らは信じているのではないか、そういう教育を受けているのか」と感じた。日本が勝ち、外交問題に発展するのを恐れ日本側は穏便にすませたが、背筋が寒くなる光景だった。
さて、今回の平昌五輪では韓国内の不満が強調されるが、南北合同チームは意外と手ごわい相手になる可能性がある。1991年に千葉県で行われた卓球の世界選手権では、女子団体決勝で南北合同チームが王者の中国を破ってしまった。この時も合同練習は1カ月足らずだ。アイスホッケーは「呼吸第一」の完全なチームプレイなので単純比較はできないが、スウェーデン戦同様の「合同応援」で思わぬ力を発揮する可能性はあり、侮れない。国際戦の成績は低い北朝鮮とはいえ、少数なら精鋭はいる。前述の大乱闘の北朝鮮にも当時、「北朝鮮の矢島」(矢島敏幸は当時、王子製紙が誇った俊足のFW)と呼ばれた手ごわい快速選手がいた。
南北合同チームのニュースで日本女子代表「スマイルジャパン」(山中武司監督・大澤ちほ主将)の話題がかすんでしまった。五輪参加国は南北合同以外は欧米やカナダなどの強豪ばかり。決勝トーナメントを目指す日本は2月14日、予選リーグで当たる南北合同に勝つことが必須条件だが、大乱闘にならないことを願いたい。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)