もうひとつのポイント、「つきまとい」に関してはどうか。
「『つきまとい(みだりにうろつく)』行為が取り締まられることは、記者の張り込み取材が規制対象になる恐れがあります。いま問題になっている森友問題で、財務省官僚の自宅周辺を張り込んだり、前国税庁長官の佐川(宣寿)さんの自宅や滞在先をうろつくことも規制される可能性があります」(同)
取材活動はもちろん、労働組合や市民運動が団交や批判の対象者がいる場所に出入りし「うろつく」ことは当然あるだろうが、このような動きもできなくなる。
委員会で反対はたった1人
さらに、取り締まり対象には、電子メールやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)での発信も含まれている。そのため、日常的に何気なく批判的な言動をアップすれば、逮捕されるおそれは十分にある。
批判内容が名誉棄損と解釈される場合が要注意だ。通常、名誉棄損は告訴するなどの行為が必要だが、改正条例案では被害者が訴えていなくても警察の判断で捜査できてしまうのだ。
つまり、捜査当局の意向でどうにでもなる、民主主義と言論表現の自由に対する時限爆弾のような都条例改悪案だ。それなのに、警察・消防委員会で反対したのは共産党の大山とも子議員ただ1人で、都議会民進党・立憲民主党、都民ファースト、自民党、公明党などは賛成した。
その大山議員が抗議集会に駆けつけた。
「二十数年間都議会議員をしていて、皆さんからのファックスや意見など、数日間でこんなに盛り上がったことはありませんでした。都条例改定案は、『悪意ある』などと内心の問題に踏み込む内容です。悪意があるかないかを判断するのは警察です。そもそも改正する必要のある具体的事実(立法事実)があるのかと聴いたところ、警視庁は『統計がないから』と答えを避けました」(大山議員)
このように、今回の改定はまったく必要性がないと指摘した。そして大山議員は最後に「29日の本会議がある」と、世論の動向によっては本会議で否決できるとして、わずかな望みを抱いていることを明かした。
重大な懸念があるにもかかわらず、たった1時間の審議で委員会採決をしてしまうとは、都議会と都民をバカにしているとしか言いようがない。警視庁の提案どおりに改正案を都議会に提出した小池百合子都知事の目的は、不正に対して街頭で抗議する市民を“排除”することなのだろうか。
(文=林克明/ジャーナリスト)