新たな暗雲は米国の国家安全保障担当補佐官にジョン・ボルトン元国連大使が指名されたとのことである。トランプ米大統領は22日夕(日本時間23日午前)、自身のツイッターでトランプ政権の外交・安全保障を取り仕切るマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を4月9日付で解任し、後任にボルトン氏をあてることを明らかにした。ボルトン氏は過去、北朝鮮との交渉を行い、最も強硬派の一人である。
今回、韓国側を通じて北朝鮮が米国に伝えたのは、(1)非核化を考え、(2)武器実験を止め、(3)今春の米韓軍事演習の開催を受け入れるという点である。過去、北朝鮮との交渉を担当してきた元国家安全保障会議(NSC)アジア部長ビクター・チャ氏は「北は決して無償で何かを提供する国ではない。米国は何を見返りに与えるか」と発言している。彼は交渉が不成功に終わったときの反動を懸念している。
米朝首脳会談で、「北朝鮮は核兵器開発をしない」ということが合意されれば、「世界にとって最高の合意ができるかもしれない」ということになる。しかし、北朝鮮は米国から何も取らないで、「核兵器開発をしない」ということはしないであろう。
朝鮮半島の緊張を望む勢力
米国が、北朝鮮から核兵器開発をしないという合意を引き出すための政策はいくつかある。
(1)米国は北朝鮮が軍事行動をとらない限り、北朝鮮の体制を転覆させたり、指導者を交代させる目的を持って、軍事行動を行わないことを表明する。
(2)朝鮮戦争を最終的に終結させ、平和条約を結び、外交関係を持つ。
だが、こうした策を米国が検討している様子はない。果たして、トランプ大統領が期待する「核兵器開発をしない」ということに金委員長がコミットするか。金委員長が「核兵器開発をしない」ということにコミットしなければ、トランプが米朝首脳会談から「早々に立ち去る」ことも十分ありうる。
米国国内で強い影響力を持つ軍産複合体は、朝鮮半島の緊張を望んでいる。そんななかで、トランプ大統領が北朝鮮との間で根気強く和平に努力するとは思えない。ハリス太平洋軍司令官は3月15日、議会で証言し、米朝首脳会談について「結果について過度に楽観的にはなれない。どう進むか注視しなければならない」との認識を示した。また、ハリス司令官は「完全、検証可能かつ不可逆的な非核化」が必要だと改めて強調した上で「大きく目を見開いて米朝首脳会談に臨む必要がある」と指摘した。
考えてみれば、米朝首脳会談実現への道をつくったのは、文在寅大統領はじめとする韓国政府の努力による。朝鮮半島に武力衝突の事態が起こって困るのは、北朝鮮と韓国の人々である。これを回避したいと動いた文大統領は称賛に値する。
しかし、米国には朝鮮半島の緊張を望む勢力がある。文大統領と金委員長がいかに緊張を回避できるか、手腕が問われる。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)