雑事に惑わされず勉強できる環境といえるが、それもいい季節だけだ。冷房がないので夏になるとあまりに暑く、何も頭に入ってこない。風呂に入れるのは、夏は週に2日、冬は週に1日だ。
読みたい記事があったため「週刊プレイボーイ」を買ったら、久々に見たために、ごく普通のヌードグラビアにかなり興奮した。ヌードが懲役囚の手に渡る場合、墨塗が施される場合があると聞いたが、勾留生活ではそういうことはなかった。
未決収容者遵守事項には、わいせつな絵画の禁止の項目があるが、普通のヌードはこれに当たらないのだろう。ちなみに未決収容者遵守事項の最初には「逃走し、又は逃走することを企ててはならない」と書かれている。ほかに禁止されていることとしては、タバコ類の作成、シンナー類の吸飲、性行為、賭博、けんか、暴行などがある。
自費で買える物は、文房具や日用品、食料品など数多い。いくつか挙げてみると、さばみそ煮缶、鯨缶、牛肉、納豆、卵、みかん缶、パイン缶、あんパン、ジャムパン、カステラ、ようかん、かりん糖、チョコ、バナナ、みかん、甘夏などがある。
飲み物には、牛乳やトマトジュースなどがある。筆者がよく買っていたのは、ホットコーヒーである。これは市販もされているもので、紙コップとインスタントコーヒー、砂糖、クリーミングパウダー、プラスチック製のスプーンがセットになったものだ。午前と午後の1度ずつ、「お湯配当ー」と声が聞こえてくる。報知器を倒して待っていると、やかんを持った懲役囚がやってきて、カップに湯を注いでくれる。
刑罰ではなく身柄を確保されているだけなはずなのに、アルコール類を飲むことはできない。筆者はこの時すでにタバコを止めていたが、購入できる品目にタバコはなかったので喫煙もできないのだろう。警察での留置では、運動の時間とは名ばかりで、皆タバコを吸っていた。
勾留は刑罰に等しい
取り調べでは何もしゃべらず1枚の調書もつくらせなかった筆者であるが、成田空港反対運動を卒業して、できればライターになりたいと考え始めていた。筆者の所属していた政治セクトは、農民の支援をするという名目で、自分たちの政治目的のために農民を利用しているのが見えてきたからだ。
せっかくの機会だから、勾留されている他の人たちとも話したいと考え、独居房から雑居房に移りたいと考えた。保安課長あてに面接願いを出し、面接がかない希望を伝えた。
「雑居房には組関係の者が必ず1人はいて、あなた方のようなサヨクの方とは事故になる」と言われ、「いや警察署では組関係の方と一緒の房で、仲良くやってました」と反論した。薬物関係で入っている暴力団関係者は他の者の供述によって捕まるケースが多く、黙秘を貫くサヨクは尊敬されるのだ。それでも、「あなた方は、他の人たちに影響を与えるから」と言われて、希望はかなわなかった。
弁護士の接見で、看守に伴われて廊下を移動していると、同じ日に逮捕された“同志”が向こうから、同じように看守に伴われて歩いてきた。「元気か?」「がんばれよ」と声を交わした。後日、これが「不正連絡」だとして取り調べを受ける。黙秘していたら、懲罰が決定した。
コンクリートの建物から、レンガ造りの古い建物に移される。房に入ると悪臭がひどい。それまでは水洗トイレだったが、この建物では排泄物をバケツの水で流すと建物に沿ってある溝に落ちる仕組みで、その臭いが部屋に充満しているのだ。懲罰は1週間。その間、読めるのは部屋に備え付けてある未決収容者遵守事項だけである。昼間は食事時間以外は、部屋の真ん中の決められた場所に座っていなければならない。運動の時間はなくなる。面会に訪れた者がいても、許可されない。鉄格子ではないので、房の外の様子はわからない。鉄板ドアののぞき窓から、ふいに看守が覗き込んでくる。しかたがないので、スクワットだけ行った。これなら、トイレのために立ったところだと言い逃れできるからだ。
ごく普通の挨拶を交わしたことが「不正連絡」と見なされて、あまりにもひどい懲罰が加えられる。不定期に身体検査があり、全裸にされて肛門にガラス棒を入れられて、何か隠していないか確かめられる。これが果たして、刑罰ではなく身柄を確保しているだけといえるのだろうか。
筆者に下されたのは、懲役8カ月執行猶予3年の有罪判決であった。執行猶予といいながら、約半年間の勾留は刑罰に等しいものと思えた。
籠池夫婦の長期勾留に注目が集まっている今、人質司法の問題はもっと議論されるべきだ。
(文=深笛義也/ライター)