今年に入り、ヤクザ業界関係者らの間で噂になっていたことがあった。ヤクザ社会でも異彩を放つ組織・浪川会が、二代目体制を発足させるのではないかと取り沙汰されていたのだ。その声は日を追うごとに強くなり、3月に入ると「4月の大安に盃を執り行うようだ」と言われるようになっていた。現に筆者も以前、当コラムでそのことについて触れたことがあった【参考記事: 神戸山口組が新人事発表】。
そうして迎えた4月7日、大安吉日。噂通り、福岡県大牟田市にある浪川会本部で継承盃が執り行われた。二代目浪川会会長には、浪川会の中核組織である五代目村神一家・梅木一馬総長が就任。創設者の浪川政浩会長は、総裁職に就任したことが明らかになった。
では、業界関係者らの間でも、その代替わりが大きな関心を集めるほどの浪川会とは、どういう組織なのか。
元は福岡県久留米市に本拠を置く道仁会の内部分裂により、2006年に誕生した九州誠道会を前身とする組織で、12年には暴力団対策法に基づく「特定抗争指定暴力団」(指定暴力団のうち、対立抗争状態にあり、市民の生命・身体に重大な危害を加える恐れがあるとして、都道府県公安委員会が指定した組織)に、道仁会と共に官報によって公示されている。これは日本で初のことだった。
両組織の抗争は複数の死傷者を出し、近年稀に見るほどの熾烈を極めた。この抗争によって、現在、ヤクザ全体を脅かしている暴力団排除条例の施行が少なからず早まったとさえいわれている。
この抗争は、警察当局の激しい取り締まりもあり、13年6月には道仁会サイドが終結宣言書を出して、九州誠道会は解散届を当局に提出。血で血を洗う争いにピリオドが打たれた。その後、九州誠道会の勢力を引き継ぐかたちで13年10月に浪川睦会が発足し、現在の浪川会に至っている。
2つの山口組との親交をもってきた組織
創設者の浪川前会長の生き様は、早くからVシネマに描かれているほど有名で、その名を知る者はヤクザ業界にとどまらないといわれている。なかでも、神戸山口組・井上邦雄組長との関係性は深く、神戸山口組が東京都内で会合を開催した際には、地元組織との混乱を避けるために、浪川会東京事務所を会合場所に提供したこと報じられ、話題になったことがあった。
また、捜査筋によれば、六代目山口組と神戸山口組が特定抗争指定暴力団となるのではないかと噂された際には、四代目山健組関連施設で開かれたといわれる神戸山口組サイドの勉強会に、浪川会長自らが姿を見せたとの情報もあったという。
一方で、浪川会長の交友関係の広さは全国区といわれており、六代目山口組サイドともパイプを持っているといわれている。現に、15年に九州に本拠地を置く4組織からなる親睦団体「四社会(工藤會・道仁会・太州会・熊本会)」と六代目山口組が関係性を凍結することになった際には、その原因として、六代目山口組が四社会とは対立する浪川会との親交を深めつつあることを、四社会サイドが指摘したことがあったのではないかといわれている。
今回、二代目体制の発足にあたっても、さまざまな噂が取り沙汰されていた。袂を分かち、抗争を繰り広げた道仁会との統合、もしくは道仁会サイドとなんらかの新たな関係性を築こうとしているのではないかともみられていた。ある地元関係者によると、「その調整に入っていた」と口にする人物も存在するという。
「そういう噂は何度も取り沙汰されていた。だが、道仁会と九州誠道会の抗争はあまりにも激しすぎた。そのため、代がかわったからといっても、浪川会と道仁会の関係修復には、まだ時間が必要とされるのではないか」(地元関係者)
新体制となった浪川会だが、それに伴う組織の変化、特に神戸、六代目の両山口組との関係性がどのようになっていくかは、少なからず山口組分裂騒動に影響を与えるため、現在、業界関係者や当局からも注目を浴びているのだ。
(文=沖田臥竜/作家)