しかし、仮にそうした厳しい制限がなくても大阪のIRが苦戦することは必至だ、とする意見が、地方自治体関係者や観光業界関係者から聞こえてくる。観光業界関係者は、こう話す。
「訪日外国人観光客を相手に、お金を落としてもらおうという狙いからIRに取り組む政府や地方自治体ですが、昨今ではカジノを中心としたIRの整備は、どこの国でもやっています。決して珍しい施設ではありません。アジアだけでも、シンガポールやマカオに一大カジノリゾートがつくられています。マカオのような大規模なカジノ施設をつくらなければ、海外と勝負できませんし、訪日外国人観光客を呼び込むこともできないでしょう。ですが、日本にそんな巨大なIRをつくれるリソースがあるのか疑問です。中途半端にカジノをつくっても、無駄なハコモノをつくったというだけになってしまい、10年もしたら忘れられた存在になるのがオチです」
世界的に変化するIRの潮流
また、世界の潮流はカジノを目玉とするIRから、家族で楽しめる総合エンターテイメント色の強いIRへと変化しつつある。マカオのIRは、10年前から凄まじい勢いで伸び、シンガポールやラスベガスを抜いて世界一のカジノシティになった。マカオのカジノが隆盛を極めた背景には、マカオ政府が観光政策としてカジノリゾートの開発に力を入れたことや、中国の経済成長、外国人観光客の増加というさまざまな要因があった。
しかし、ここ数年間、マカオのカジノリゾートは停滞を余儀なくされた。その理由は、中国の経済成長が鈍化したというのが大方の見方だが、香港をはじめほかの近隣都市に観光客を奪われているといった要因もある。
「マカオは世界遺産もたくさんある魅力的な観光都市ですが、夜はカジノしかないというのが弱点でもありました。カジノは家族で楽しむことができません。そのため、マカオのIRは方向転換を迫られたのです。最近のマカオは、極度にカジノ依存しない方向にシフトしています。さまざまなエンターテイメントを提供することで、家族が楽しめるようにする。そういう取り組みによって、滞在日数が長くなって経済効果も高まったのです」(前出・観光業界関係者)
ターゲットをカジノ客からファミリー層に転換したことで、マカオの観光業は復調しつつある。さらに、これまで香港からマカオにアクセスするためにはフェリーや高速船を使わなければならなかったが、このほど、香港とマカオを結ぶ港珠澳大橋が完成。これによって、香港とマカオは自動車でアクセスできるようになる。所要時間も約30分と半減し、マカオが香港の通勤圏に入る。もちろん、香港からマカオに出かける観光客も増えるし、香港から日帰りで遊びに来る人も増えると見込まれている。港珠澳大橋は、マカオのカジノにとって起爆剤になることは間違いない。
IRで経済効果を目論む大阪だが、さらに強大化するマカオという世界屈指のカジノシティを相手に戦うことになる。苦戦は必至で、消極的になる都市も出てくるなか、大阪は撤退する気を微塵も見せていない。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)