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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中身なき米朝共同声明の謎…北朝鮮での中国人大量死亡事故と、軍最高幹部の一斉更迭

文=相馬勝/ジャーナリスト

 すでに、これ以前の5月26日には「朝鮮人民軍総政治局長が金正角(キム・ジョンガク)氏から金秀吉(キム・スギル)前平壌市党委員長に代わった」と北朝鮮メディアが伝えている。米朝首脳会談という重要な国家行事を目前に控えて、軍のスリートップが交代というのは考えにくい。少なくとも定例の人事異動ではなさそうだ。

 このため、韓国統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官は6月4日の定例会見で、北朝鮮の朝鮮人民軍トップ3人の交代説について、「総政治局長が金秀吉(キム・スギル)氏に代わったことは確認されたが、人民武力相と軍総参謀長は(交代が)公式に確認されていない」としながらも、「いずれも交代されたなら、異例の状況」と指摘。聯合ニュースは、これについて次のように解説する。

「北朝鮮は今月12日のシンガポールでの朝米(米朝)首脳会談を控え、米国と非核化交渉を進めている。同会談の結果、金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)が核放棄を最終的に決断すれば、軍内部の強硬派が不満を持つ可能性があり、これを抑えるため軍トップを交代したという分析もある。

 また、韓国情報当局の別の関係者は、新任の3人がいずれも前任者より若いことに触れ、『世代交代とみることもできる』と述べた。この人事は5月17日に開かれた朝鮮労働党中央軍事委員会の会議で決まったと推定される」

 つまり、軍のトップ3は更迭か、軍トップの若返り人事かのいずれということになる。金氏が米朝首脳会談の冒頭での発言を勘案すれば、軍のトップ3を中心に軍内では米朝首脳会談に反対する勢力が多いということが考えられよう。

トランプから金正恩への手土産

 実は、筆者は中国・北京のニュースソースから別の情報を得ている。それは、今回の軍最高人事が、4月下旬に北朝鮮南西部の黄海北道で中国人団体観光客32人が死亡、2人が重傷を負った交通事故と関係しているというものだ。

 同筋によると、中国人団体観光客が参加したツアーを運営していたのは軍直属企業であり、しかも中国人観光客が乗ったバスに衝突したのが、軍の兵員輸送トラックだったという。このため、軍の3トップが責任をとって更迭され、軍直属企業のトップで少将の位を持つ社長ら4人が銃殺刑に処せられたというのだ。
 
 この事故では金氏が自ら病院に足を運び、負傷者を見舞うなど丁重な対応をとっていただけに、「今回の軍最高幹部更迭などの措置は金氏が直接命令しており、米朝首脳会談を前に、最大の支援国である中国に忖度したものだ。この3人は軍内強硬派で知られているだけに、首脳会談直前の更迭は時期的にも都合が良かった」と同筋は明かしているのである。

 当然、トランプ氏も北朝鮮の軍内には対米強硬派が多いことは承知の上だろう。それは金氏の冒頭の発言やトランプ氏の「ありがとう」発言からも明らかだ。このため、同筋は「もし、かりに首脳会談で成果のないまま、金氏が帰国した場合、金氏が軍から突き上げられる可能性も出てくる。このため、トランプ氏は金氏の手土産に共同声明を発表。非核化の進展を2回目以降の首脳会談に持ち越してでも、今回の首脳会談の成果として、北朝鮮の体制維持保証を明確にしたのだ」と指摘している。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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