安達氏は日本体育大学レスリング部出身だが、その昔、バルセロナ五輪をかけて栄氏と争ったことがある。その名勝負を現場で取材した筆者には、最近テレビで雄弁に栄氏を批判する安達氏の姿からは、勝って五輪に出た自分より負けた栄氏が近年、名伯楽としてもてはやされていることを妬んでいるようにも見えた。栄氏が協会の強化本部長を辞任し、常務理事を解任されることに飽き足らない安達氏が、第三者委員会のパワハラ認定を笠に着て、栄氏、そして至学館大学を潰そうとしているように感じる。
5月31日、栄氏が現場復帰して指導している様子を紹介したリリースが協会のHPに掲載された。しかし協会は「チェックしていなかった。書いた本人の見解」と慌てて削除した。
日体大
さて、警視庁で指導していた田南部氏は、今春から日本体育大学のコーチとなっている。そして6月になって、「伊調選手が日体大で練習することが決まった」と公表された。「国民の宝ですから」と松浪健四郎日体大理事長(レスリング協会副会長)がにやけながら語る姿からは、あたかも「窮地のヒロインを日体大が助けましたよ」と言いたげにみえた。
しかし告発書にある「パワハラで伊調選手が練習の場がない」という訴えは不思議だった。
五輪4連覇、国民栄誉賞も授与されている伊調選手を受け入れれば、何よりの大学の宣伝にもなる。大学でなくとも、全国のクラブも伊調選手を大歓迎したはずだ。伊調選手が所属する警備会社ALSOKが道場を持たないとはいえ、練習する場所がないという報道に違和感を覚えた人も多いだろう。ちなみに前出・第三者委員会の調査報告書は、「協会の幹部が練習拠点である警視庁への出入りを禁止した」という告発について、事実と認めるに足る証拠はなかったとしている。ある協会関係者はこう語る。
「伊調選手が日体大で練習するという話は、昨年末か今年の初めには決まっていました。実際に伊調選手はその頃、東京・大田区にある自宅を引き払い、日体大の女子レスリング部の練習場がある世田谷区に転居していたようです。1月の新年最初の日体大男子レスリング部の練習日、横浜市・健志台にある男子レスリング部の練習場を訪れ、彼女は松本慎吾監督に挨拶しています。その頃、男子グレコローマンの全日本合宿も行われており、『伊調選手が日体大で練習することになった』との情報が、全日本チーム内であっという間に伝わりました。そのため、『栄氏のパワハラによって伊藤選手の練習の場が奪われている』という報道が出た際には、不思議がる協会関係者も多かったですね」
ちなみに実は筆者は5月末、栄氏に単独インタビューを行って、本人の思いのたけを聞いたが、しばらく公にはしない。