協会幹部たちの対応の“まずさ”
谷岡学長は当初、今回の栄氏の謝罪会見に強く反対していた。3月、谷岡学長は会見で伊調選手が選手登録していないことを説明すればよかったが、怒りの感情が前に出過ぎ、「伊調さんは選手なのですか」とぶっきらぼうに発言し、批判を浴びたからだろう。
栄氏を擁護し続けてきた谷岡学長は17日、大会終了直後に緊急会見を開き、至学館大学レスリング部の栄監督を解任すると発表。「3日前に監督は会見で反省を表明したが、その後のありようは私たちを裏切った。反省できていない」とその理由を説明した。栄氏は釈明会見を行った14日、昼食のために試合会場を離れ、会場に戻ってくるとタレントの千原せいじと談笑。翌15日にも昼食をとるために試合会場を離れたという。さらに19日発売の週刊誌「FLASH」(光文社)は、栄氏が釈明会見当日夜に知人らとキャバクラに行っていたと報じており、この件も監督解任の大きな要因とみられている。
気の小さい栄氏は謝罪会見を無事終えて気が緩み、谷岡学長が依頼したセコンド担当を断っての行動なら怒りも当然だ。大会最終日、リオ五輪金メダリストで至学館大出身の登坂絵莉が筆者の目前で敗れた。3日目から栄氏の姿がないことが影響したのか。
そんな谷岡学長と栄氏に加え、「誤解」との釈明を繰り返した福田富昭会長、「早く謝ってすませたい」という高田裕司専務ら協会幹部の発言は、あまりにも言葉足らずで批判を浴びてしまっている。「五輪の時だけ注目される競技」と皮肉られるレスリングの競技人口は少ない。協会予算も五輪などの強化費に特化しており、レスリング協会がマスコミ対策に慣れていないことが露呈した。
一連の騒動が松浪氏の「マッチポンプ」なのかはわからないが、協会関係者は語る。
「東京五輪を前に松浪さん率いる日体大派閥が、協会内での権力を至学館派閥から奪うための派閥争いにすぎない。謝罪会見直後の行動をみてもわかるとおり、栄さんの脇が甘いのは明らかだが、栄さんには権力欲や名誉欲はまったくなく、ただ現場で指導をしていたいというタイプで、良くも悪くも警戒心がない。そうした性格の栄さんが、権力争いにうまく利用されたと見ている関係者は多いですよ」
そうした争いに伊調選手や栄氏が利用されたとは思いたくない。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)