情報機関が活気づいている。特に、公安調査庁が現場への人員配置を増加するなど、情報収集の強化に乗り出している。この背景には、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えて、テロ防止の強化がある。
公安調査庁は法務省の下部組織だが、警察組織ではない。同庁のホームページでは、その目的について次のように説明している。
「破壊活動防止法、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づき、公共の安全の確保を図ることを任務として、オウム真理教に対する観察処分を実施するとともに、国内諸団体、国際テロリズム、北朝鮮、中国、ロシア等の周辺諸国を始めとする諸外国の動向など、公共の安全に影響を及ぼす国内外の諸情勢に関する情報の収集及び分析に取り組み、我が国情報コミュニティの一員として、情報(インテリジェンス)の提供を通じた政策決定への貢献に努めています」
警察組織の公安警察、内閣官房の内閣情報調査室(内調)とともに日本の情報機関の中核を担っているものの、旧民主党政権の事業仕分けでは廃止の候補になったこともある。それだけに、「上層部は東京オリンピックが我々の実力を発揮する絶好の機会と考えているようだ」(同庁関係者)という。
「来年2019年は、4月に天皇陛下の退位、5月に皇太子殿下の即位がある。政治思想テロに関連するものでは、この天皇陛下の退位関連が焦点になる。さらに、9月からはアジアでは初めて、ラグビーワールドカップが日本で開催される。これは、2020年の東京オリンピックの開催の前哨戦、東京オリンピックに向けての実践練習になる」(別の同庁関係者)
ただ、同庁の年次報告書「内外情勢の回顧と展望」でも明らかなように、この報告書の項立てとして取り上げられているのは、オウム真理教、過激派、共産党、右翼団体などといったもので、政府関係者やマスコミからも、「今時、オウム真理教や共産党がテロ行為を行うと考えるのはナンセンス。ここを監視するのに予算を使っているのであれば、民主党が廃止候補に挙げたのもうなづける」との声が出るほどだ。
試される、日本の情報機関の実力
当然、同庁でも同様の危機感を持っている。
「最近、会議で上司の口から出るのは、新たな情報ソースの開拓という話。これまでのオウム真理教や共産党ではなく、たとえば中国や韓国、北朝鮮の人脈や不審者に対する情報ソースの開拓という話が多い」(同庁関係者)
もちろん、中国、韓国あるいは北朝鮮からのテロの可能性が高いというわけではないが、「在日という点で、この3カ国の動向、特に不審人物の動向を把握しておく重要性があると判断されている」(同)という。
もっとも重要なのは、2020年の東京オリンピックでのテロ防止という点にあるが、一朝一夕に情報ソースの開拓、情報網をつくることができるわけではない。
「上司からは、折に触れて、2020年の東京オリンピックを展望して、情報網づくりを進めるようにという話が出てくる」(前出と別の同庁関係者)
これが、日本の情報機関が活気づいている背景にあることは間違いない。しかし、「もともとテロに対する意識が薄い日本人の国民性から考えて、付け焼刃的なテロ防止のための情報網づくりがうまく機能するとは思えない」(政府関係者)と冷めた声が聞かれるのも事実だ。
東京オリンピックは、まさに日本の情報機関の実力が試されることになりそうだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)