もう1つは、マスコミにいろいろなことを報じられちゃうと、『秘密の暴露』が成立しにくくなるということがあります。仮に誰かが『こういう理由で、こういうやり方で殺しました』と言って、秘密の暴露で犯人に間違いないとなっても、法廷に出てから、『取調官に追及されて、めんどくさくなったから、週刊誌のどこかに書いてあったことを言っただけで嘘の供述です』って言われたら、全部が崩れちゃう。ワイドショーでは、推論を含めていろんな人がいろんなコメントしてますよね。視聴率を取るために、おもしろおかしくやるのはいいのですが、捜査に対してはリスクがあると思いますね。
マスコミの記者というのは、捜査員に対して『なんで答えられないんですか?』とか『本当はわかってないんじゃないですか?』とか、答えを引き出そうとして挑発してくるんですよ。地方の警察はそういうことにも慣れてないから、ポロッと漏らしちゃうこともある。そういうことも問題ですね。捜査とは関係ないですけど、野崎さんの妻は過去のことまで暴かれていますが、もし犯人ではなかったら大変なことです。潔白が証明されたとしても、そういうことはずっとついて回るわけですから」
では捜査の初動のまずさとメディア加熱によって、この事件は迷宮入りしてしまうのだろうか。
「実はほぼ核心に迫っていて、犯人が尻尾を出すのを待ってるのかもしれない。そうだと祈りたいですね。ただ捜査の仕方があまりにバタバタしているのを見ていると、決定的なものがないのかもしれない。なんらかのかたちで覚醒剤を飲んでしまったという事故死や自殺の可能性もゼロではないわけで、いずれにしても真相を明らかにしてほしいですね」
和歌山カレー事件では結局、直接証拠を見つけられず、状況証拠の積み重ねで林眞須美に死刑判決が下された。そのため、京都大学の河合潤教授が弁護側に立った鑑定を提出するなど再審請求が続き、多くの識者からも冤罪を指摘する声が上がっている。
その二の舞を演じないよう、メディアに煽られることなく地道な捜査をしてほしいと願うばかりだ。
(文=深笛義也/ライター)