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揺れる横浜市長選挙、立憲推薦の山中竹春氏と若手のエース中谷一馬氏に聞いた(上)

構成=編集部
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山中竹春氏

 8月22日投開票の横浜市長選挙が大混乱の様相を呈している。これまでカジノ誘致が主要争点となっていたが、菅義偉政権の支持率低迷が深刻なこともあり、これまで推進の旗を振っていた自⺠党神奈川県連の大多数が一気に方針転換。彼らが支援するのは、カジノ誘致の反対を表明している前国家公安委員⻑の小此木八郎氏。そのほかにも現職の林文子市長、元神奈川県知事の松沢成文氏、元長野県知事の田中康夫氏など候補者は10人程度が見込まれ多い。それなりに有力候補がそろい、全く先の読めない選挙情勢となっているが、立憲民主党が推薦する前横浜市医学部教授の山中竹春氏と、同党の若手のエースと評される中谷一馬衆議(横浜市港北区・都筑区の神奈川7区)にインタビューする機会を得た。上下2回にわたり、政策方針などについて幅広く聞いた。

―神奈川県は菅義偉首相のお膝元、その県庁所在地の横浜市の首長選挙ということもあり、今回の横浜市長選挙は盛り上がりそうですね。山中さんはこのコロナ禍で研究者として注目を集めました。

山中)ありがとうございます。「中和抗体」というのがキーワードになりましたけど、コロナのワクチンが日本人にも効くというデータを初めて出すことができて、それがかなりマスコミにも取り上げられるようになり、日本全体で知ってもらった。あれは多くの日本人がワクチン接種に向かうきっかけになるデータとなったと思うので、すごく良かったです。

中谷)報道ステーションやミヤネ屋など様々な報道番組で大絶賛でした。

山中)多くの出演機会を頂きましたし、ニュースなどでも各社に報道して頂きました。ワクチンが変異株に効く、ベータ株、デルタ株等にも効果を発揮する、また2回打てば免疫がより上がるという結果でしたが、海外との結果とも遜色、矛盾のない結果でしたので、日本人でもそういった結果を得られたのは凄く良かったですね。

―山中さんのご経歴について伺いたい。

中谷)山中さんはもともと文系の政治経済を早稲田で勉強されたのに、そのあと大学院に行って理工学を学ばれてデータサイエンティストとして活動されていったんですけれども、どういう気持ちがあってこちらの道に進んだのか、是非教えて頂きたいと思います。

山中) まず、高校が早稲田の附属高校で、ラグビー部でずっと朝から晩までラグビーをやっていました。とにかくこの練習の苦しみから逃れたいと思ったことが何度もありましたが(笑)、全国大会出場を目指して本気でやっていました。附属高校ということもあって、ラグビーに専念しすぎて、恥ずかしながら将来のことを高校生の時にはあまり深く考えていなかったんですね。それで、いったんは政治経済学部というところに行ったのですが、最初は実はアルバイトばっかりやっていたのです。

―どんなアルバイトをやっていたんですか?

山中)本屋さんや居酒屋の店員、ビルの清掃、もう色々やりましたね。多分高校の時にラグビーをやっていて自分の時間が取れなかったので、社会活動と言ったら言い過ぎですけどアルバイトに精を出していました。その時にできた交友関係が未だに続いたりもするので、それはそれで凄く良かったです。でもアルバイトをやりすぎて結構大学の単位を落としちゃったんですね。

揺れる横浜市長選挙、立憲推薦の山中竹春氏と若手のエース中谷一馬氏に聞いた(上)の画像2
中谷一馬衆議

―そうなんですね、意外ですね。

山中)奨学金を借りているのに、留年したらまずいなと思いまして、そこから勉強し始めたんです。それで、勉強し始めたら、経済学というよりも経済、政治、社会の現場から生まれるデータを分析して、それに基づいて意思決定をするという方法論が面白くて。そうしたら、今度は、分析手法の理解を深めたいなと思い、数学科に潜り込んで数学や統計学の授業聞いてたんですね。数学科の先生たちも、最初はなんだ君はみたいな感じだったんですけど、ずっと一番前に座ってるし、質問も良くするんで、最後は凄く可愛がってもらいましたね。

中谷) その多様な経験があったから、今の山中さんを作られたんじゃないのかなと思いました。居酒屋でバイトしたり、ビル清掃をやったり、みんなと同様の経験をしたこともそうですが、政治経済を学んだことも、今、政治の世界に挑戦されていることを踏まえれば、人生には、無駄なことはないんだなとつくづく思います。

 そして、やっぱり山中さんが、専門とされているデータに基づいたさまざまな意思決定というのは、とってもとっても大事だと思うんですよ。

 今の政権なんか見ていても、本来は、EBPM(Evidence-based Policy-making = (根拠に基づいた政策立案)的な発想で、意思決定を行うことが必要なのに、今逆になっていて、PBEM(Policy-based Evidence-making = 政策に基づいた根拠づくり)。要するに、偉い人がこれをやるって決めたから、根拠を後付けで持ってこいと。そんな政治になってしまっていることに凄く憂いた想いを持っています。

山中)そうですね。今のコロナ対策は、尾身会長など公衆衛生の専門家たちが色々と提言をしていますが、政府があまり専門家の意見を重要視せずに意思決定をしていると言うのは、マスコミの報道でも伝えられているところです。8割おじさんとして有名だった西浦先生は、データを使ってシミュレーションして、コロナの感染者数を予測したり、将来のことを予測したりするのですが、私の専門性にすごく近く、シンパシーを感じますが、あまり受け入れられず、政府のコロナ対応が後手後手になっています。科学が政策に寄与するという大切なところが分断された結果、国民に自粛ばかり求める後ろ向きのコロナ対策になってしまったことは残念だと思います。

データから考えるカジノ誘致問題

中谷) あらゆる政策において、本当はその根拠となるデータは絶対に必要なはずなのに、政権維持をどうするかという着眼点で意思決定をしているんじゃないかと不満に思っている方は沢山いらっしゃると思います。

 横浜市においても、例えばカジノの場合、自治体が良くなります的なメリットとされる部分だけが切り出されて喧伝されるんですが、リスクだったりマイナス効果だったりとか結果として他の国がどうなったかというデータがほとんど議論されていないのに、一部の既得権者を中心に意思決定が進められていて、とても歯痒く思っています。

―その点、山中さんはどう思われてますか?

山中)全く同感です。例えばシンガポールではカジノうまくいってますよと賛成派の方がよく言ったりするんですけど、横浜市とシンガポールでは事情が違うんですよね。例えば、治安や風紀が乱れると言うことはないと、シンガポールの事例を出しているんですけど、シンガポールは反社会的勢力の心配をする必要がありません。一方で日本ではまだまだ懸念が残っています。また、シンガポールのカジノの入場料は今日本で予定されている額よりも高額に設定されています。シンガポールでは、個人を追跡できる監視社会になっている点も問題防止の上で大きい。このように状況が日本と違うのに、シンガポールの例を出して「カジノはこうですよ」と言っています。

 成功事例だけをピックアップし、都合の良いデータ取り上げることを”チャンピオンデータ”と言いますが、チャンピオンデータだけで議論するのは誠実ではないと思います。

中谷)おっしゃる通りだと思います。世界では約130の国や地域でカジノが解禁されているのに、一番うまくいったとされているところの良い部分だけを切り取って、他の国や地域のデータが全く尊重されないというのは、どう考えてもおかしい。韓国では依存症や治安対策でマイナス7.8兆円ぐらいソーシャルコストがかかっている。でもギャンブル産業全体の売り上げは1.6兆円ぐらいしかない。ということは、マイナス6兆円の負の効果が出ていて、国民全体からするとそれって全く潤っていないじゃないかという話になります。また、外国人観光客がたくさん来て、それで「横浜市が良くなるんだ」みたいな話を喧伝される方もいらっしゃいますけど、韓国の事例では、99%は国内の人がカジノを使っていて、外国人観光客って1%ぐらいしか使ってないんですよ。日本でも、外国人に「カジノを使いたいですか」という調査をしたら、カジノを利用したいと言った人はたったの”9%”。選択項目のダントツ最下位のカジノを持ってきても、特定の利権者しか潤わないと言うことは明らかなので、私は、このカジノを止めたいなと思ってるんですが、山中さんどうですか。

山中) カジノは、数が多すぎて世界的に過当競争なんです。アジアには、マカオやシンガポールなど名だたるカジノがいっぱいある中で、横浜にカジノを作れば、経済も税収も蘇るっていうのは、甘すぎるを超えて酷すぎる試算。しかも、コロナ前の試算ですから、今はコロナで生活も変わり、カジノもオンラインカジノが盛んになりつつあります。普通のカジノは、狭いところに窓もなく押し込められて、人々が密集してゲームに興じる三密そのものですから、過去の産業となりつつあります。そのカジノを、どう正当化するというのか。

 長く続いた自民党一強状態の下、根拠もなく「ムラの論理」や政権維持が至上命題となり、意志決定に歪みを招く体質は開催中の東京五輪でも露呈し、国民全体の信用低下につながっている。今回の横浜市長選挙でも当初のカジノ推進からの方針転換など、その体質が如実に表れており、厳しい民意を突きつけられそうだ。インタビューの続編では、日本の遅れが決定的となっているデジタル分野での政策方針について聞く。

(構成=編集部)

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