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片田珠美「精神科女医のたわごと」

結婚詐欺疑惑の後藤田正純議員と妻・水野真紀、離婚はありえない理由…お互いの付加価値を利用

文=片田珠美/精神科医

 後藤田氏の「僕は必ず総理大臣になる」という確信は、周囲の目には、「総理大臣になりたい」という願望があたかも現実にかなうかのように思い込む「幻想的願望充足」と映るかもしれない。私も「幻想的願望充足」だと思うが、その幻想を妻も共有していれば、共同幻想になる。そして、共同幻想で結ばれた夫婦が添い遂げるのはよくあることだ。

 こういうことを書くと、後藤田夫婦を打算的と非難している印象を与えかねないが、それは私の真意ではない。結婚する際に、結婚相手がどれだけの付加価値を自分に与えてくれるかを計算することは誰でも多かれ少なかれやっているはずだ。その点ではどんな夫婦も多少は「戦略的パートナーシップ」で結びついているといえる。

 この「戦略的パートナーシップ」は一昔前は家単位で行われ、「政略結婚」と呼ばれていた。昨今は家単位で行われることはまれだが、個人単位ではしばしば行われている。その典型が、バブルの頃女性が結婚相手を選ぶ際の条件として挙げた「三高(高学歴、高収入、高身長)」だろう。

 最近の若者は、結婚相手が自分にどれだけの付加価値を与えてくれるかということに一層敏感になっているように見える。だからこそ、結婚にかかるコストの割に期待できる付加価値が低いと感じる若者(とくに男性)が増え、ますます非婚化が進んでいるのではないか。

 もちろん、ただ好きだからという純粋な気持ちで結婚する夫婦もいるだろう。だが、ほれた、はれたで一緒になっても、最初の情熱的な愛情がずっと続くわけではない。だから、むしろ「戦略的パートナーシップ」で結びついた夫婦のほうが長続きすることが多い。そのうえ、たとえ共同幻想であっても、同じ夢を見ることができれば、なお素晴らしい。

 こうした視点から眺めれば、後藤田夫妻は理想の夫婦とも考えられる。この2人が今後離婚することがあるとすれば、総理大臣になる夢を一緒に見ることができなくなったとき、もしくは互いに付加価値を与え合うことができなくなったときかもしれない。
(文=片田珠美/精神科医)

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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