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江川紹子の「事件ウオッチ」第117回

【日産ゴーン氏逮捕】報道に抱く違和感 変わらぬ情報操作で真実は何処に

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 もし、報じたことが事実と異なっていても、おそらく誰も責任はとらない。検察は、自分たちは発表していない、と逃げる。メディアは、情報源を秘匿するので、ゴーン氏から裁判を起こされたとしても、誰が話をメディアに伝えたかは明らかにはならない。そしてメディアは、報道内容の真実性は証明できなかったとしても、当時の状況から「真実であると信じるに足りる根拠があった」として、 自分たちの正当性を主張する。

 厚生労働省の局長時代に大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、裁判で無罪となった村木厚子さんは、判決確定後、国家賠償訴訟を起こした。関係した検事らの証言を求め、どのようにしてこの冤罪がつくられたのかを明らかにすることが目的だった。請求額は3770万円。それに、「捜査情報を検察が報道機関にリークしたことで名誉を傷つけられた」として330万円の請求が追加された。

 国は、捜査による損害3770万円については、請求を認諾。つまり村木さん側の主張を丸のみした。それによって、証人尋問など事実に関する審理が行われることなく結審。村木さんは、民事裁判で事実を明らかにする、という最大の目的を達することはできなくなった。

 一方、マスメディアへのリークについて、国は争った。そして裁判所は、(1)調書に書かれていることと報道内容は完全に一致しているわけではない、(2)リークした検察職員の名前が明示されていない、(3)リークを聞いた記者が特定されていない、という理由で、検察によるリークを認定せず、村木さんの請求を退けた。この判決は最高裁で確定した。

 リークをした検察職員やそれを聞いた記者の名前などが明かされるはずがない。つまり裁判所は、捜査情報をリークしても、そしてそれが事実に反して無実の人の名誉を著しく毀損しても、誰も責任をとらなくてよい、とお墨付きを与えたようなものである。

 記者会見で発言すれば、その内容次第で後から責任を追及されるかもしれない。けれども密室でのリークなら、その心配がない。だから検察は、記者会見では何も言わず、個別取材に応じるかたちで、検察側が流したい情報をリークしているのだろう。

 そのため、裁判開始前どころか、起訴される以前から被疑者の有罪イメージが流布される。そのうえ勾留延長の請求という、国家機関が個人の自由を拘束する権力行使の手続についてすら、記者クラブに所属する特定メディアだけに情報が提供され、海外メディア等は蚊帳の外に置かれるという差別的対応が生じている。

 村木さんの事件で検察のさまざまな問題が明らかになり、一部は改善もなされたのだろうが、検察の情報発信(あるいは情報操作)については、まったく変わっていないのではないか。

 国際的なビジネスマンであるゴーン氏が逮捕された事件は、海外のメディアでも報じられ、注目されている。せめて、捜査の機微に触れるような情報ではなく、国内メディアに報じられたような事柄は、検察はきちんと公表すべきだろう。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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