ふるさと回帰の機運
安倍政権は特区を活用して地域振興を図ったものの、加計学園問題を発端に特区のイメージは悪化。地方自治体も特区を活用した地域振興に及び腰になった。また、ふるさと納税を活用した地方活性化策も総務省の指導により沈静化。ふるさと回帰に望みを託す地方都市は、万策尽きたかのような状態に陥った。
地方が急速な衰退に苦しむなか、微かな可能性に賭けた自治体では、東京から地方へと人口を引っ張る、移住者や定住者の掘り起こしに本腰を入れるようになる。そうした県や市町村では、2011年前後より移住・定住、または地方での起業を支援する窓口を東京に開設。ふるさと回帰の機運を絶やさないように努めてきた。
開設当時はふるさと回帰の認知度は低く、相談件数や実際に移住・定住した人の数は多くなかった。しかし、2011年の東日本大震災を機に状況は大きく変わった。東京圏では首都直下型地震も想定されており、東京圏に住む多くの人たちが安全な地に住みたいと考えるようになったからだ。ふるさと回帰支援センターが発表した2012年の移住地人気ランキングでは、1位が長野県、2位が岡山県、3位が福島県という結果が出た。
長野県は避暑地・別荘地・リゾート地のイメージが強く、長野新幹線を使えば東京まで短時間で移動できることが支持されて1位を獲得。2位の岡山県は地震や津波などの災害リスクが少なく、原発からも遠いことが評価された結果だ。岡山県は大阪や神戸といった大都市にも近い。また、政令指定都市として発展を続ける岡山市の経済的な魅力も加味された。3位の福島県は、東日本大震災によって被災した福島を復興したいと願う若者たちを中心に移住者・定住者の人気を集めた。
毎年初めに、ふるさと回帰支援センターが発表する移住地人気ランキングは、経済・社会の情勢を如実に反映する。災害リスクが少ないとされる岡山県は、2013年・2014年でも3位にランクインしたが、2015年では5位に後退した。その一方、中国地方で岡山県と覇権を争う広島県が前年18位から6位へと大躍進を遂げた。広島県が人気になった理由は、岡山よりも都市の規模が大きく、経済的にも雇用的にも堅調であることを物語っている。
年によってランキングに変動はあるものの、2013年以降から安定的な人気を誇っているのが山梨県と長野県だ。長野県が人気の理由は前述のとおりだが、2012年に人気ランキング15位だった山梨県が2013年には2位となり、現在に至るまで長野県と人気を二分するまでになっている。