――もし事実であるとすれば、このまま正常に成長するかもしれないし、がんなどのリスクに一生直面するかもしれません。
ノフラー オフターゲット作用というのは、本来期待していない部位に挿入欠損変異が生じることですが、それが起きなかったという保証も証拠もありません。もし起きていたら、将来その子供に何が起きるか、まったく予想がつきません。明らかにその科学者は研究組織の許可を得ずに、秘密裏にやったので透明性はゼロです。透明性は科学でもっとも重要な要素のひとつです。
もしこれが新華社通信の報道にあるように事実だとしても、この科学者は今まで行った実験で流産が起きたり、死産が起きたり問題が起きていたかもしれません。でもそれを公表することはないでしょう。透明性がもっとも重要な要素のひとつであるというのは、そういうことです。
――ハーバード大学の遺伝学者であるジョージ・チャーチは、中国人科学者に向けられた批判を冷静に見ています。批判する前にオフターゲット作用が起きたかどうかなどを調べるべきだ、と言っております。
ノフラー 確かに、この中国人科学者がやらなくても誰かがやった、あるいはいずれやるだろうと思います。ですから、チャーチ氏の言うように、単にこの科学者を批判するだけでは十分な議論になりません。科学の発展は逆戻りができません。やはり100%の透明性が必要だと思います。
(取材・文=大野和基/ジャーナリスト)
●ポール・ノフラー:“GMO Sapiens”(邦訳『デザイナー・ベビー ゲノム編集によって迫られる選択』<丸善出版> の著者。
カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部で博士号(分子病態学)を取得。その後、カリフォルニア大学デービス校助教、准教授を経て、同校医学部細胞分子生物学・人体解剖学科、ゲノムセンター、総合がんセンターの教授。研究テーマは人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含む幹細胞治療の安全性の向上など。2013年にはノーベル賞受賞者・山中伸弥らとともに、幹細胞研究分野の「最も影響力のある50人」の1人に選ばれた。