大坂に“日本国籍を選択させたい”テニス協会
先に述べたバイン氏との“衝突”が見られた全豪オープンでは、日本テニス協会がいつも以上に大坂をサポートしていたことも付言せねばなるまい。それまで、大坂につく日本人スタッフは、基本的には吉川真司コーチだけだった。しかしこの全豪で日本テニス協会は、対戦選手のデータ分析チームをも現地入りさせているのだ。
「日本のトップクラス選手は、幼少期から特別教育を受けるアカデミーの出身ですが、大坂は最初は父親からテニスを習っており、アカデミー出身ではない。つまり彼女は、『日本を愛してはいるが、協会に“義理”はない』わけです。そんな彼女に対し、日本から来たスタッフは球拾いまでやっていましたよ」(前出の外国人特派員)
いわば大坂に対して“恩”を売り、日本国籍取得に向けて少しでも後押しをしたかった、というわけなのだろうか?
しかし、今や大坂なおみは、CM出演料、スポーツメーカーとの契約金などを含めれば年間30億円を稼ぎ出すスーパーヒロインである。通常、専属コーチのギャランティーは、選手の年間獲得賞金の10%から15%が相場。細かなオプションの存在もあろうが、大坂のランキングが急上昇したことで、大坂とバイン氏がコーチ契約を結んだ2017年12月とは状況が変化、それに伴い、内容を見直さなければならない条項が発生した、という可能性もあるだろう。だとすれば、やはり契約解消の本質はカネの問題だ、ということになる。
けれども、一流のテニスプレーヤーがコーチを交代させるのは、よくある話ともいえる。昨年の全仏覇者、シモナ・ハレプ、同年全英を制したアンゲリク・ケルバーはその直後にコーチを代えている。大坂選手を含めると、この1年の間にグランド・スラムを制した女子選手は全員、その後にその時のコーチとの別れを選択していることとなる。
つまり一流選手はこれまでも、「もっと上を目指す」「追われる立場に変わった」ことを理由に、でコーチやスタッフを入れ換えてきた。そういう意味では、こういう言い方も可能だろう。大坂もまた、一流プレイヤーの仲間入りを果たしただけなのだと。
(文=美山和也)