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バレンティン、本塁打記録は再び“妨害”に遭うのか?“妨害”の歴史と五輪招致への影響

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 残るオリックスとの2試合では、オリックスの投手は真っ向勝負をしてくれたが、結局新記録達成はならなかった。

 そして翌年の02年。今度は西武のカブレラである。この年西武は9月21日にリーグ優勝を決めているが、53号が出たのはその前日の9月20日。ダイエーの水田章雄から54号を打ったのは9月27日。この時点で残り9試合。28日、29日と続いたダイエーとの3連戦では敬遠攻勢は受けていない。

 近鉄の岡本晃から55号を放ったのは10月2日。この時点で残りは5試合。5日のダイエー戦、6日の日本ハム戦、9日、10日のオリックス2連戦、それに14日のロッテ戦である。

 5日のダイエー戦の先発は10勝目がかかっていた若田部健一で捕手は田口。5打席中四死球は3打席だったが、残る2打席のうち1打席はボール球をカブレラが強引に振って当てているものだ。

 “事件”が起きたのは7回。第4打席で左上腕部にデッドボールを受け出塁。3塁まで進塁したところで打者平尾のショートゴロの間に本塁に突入。間に合うわけがないタイミングだったのに、捕手田口の顔面に左ヒジをお見舞いしたのである。

 結局カブレラはこの日は打たせてもらえず、その後の4試合ではすべて真っ向勝負してもらえたのに、本塁打狙いの力みゆえか、あと1本を打つことができなかった。

 さらに、手が届いていた三冠王もダイエー戦以降の4試合で打率を下げ、首位打者は日本ハムの小笠原道大(現巨人)にさらわれ、打点でも近鉄ローズに抜かれ、まさかの1冠に終わった。

●あえてヒールを演じた? 王監督の真意はどこに

 以上を総括すると、敬遠攻勢をかけられたのは3人ともたった1試合。その1試合が最終戦でそこに55号がかかっていたバースはともかく、ローズとカブレラはそのたった1試合以外ではちゃんと勝負をしてもらえているし、その1試合のあとにもチャンスがあった。ローズとカブレラが問題のダイエー戦で奪われたものは、打撃の機会ではなく、実力の発揮に必要な平常心だったのではないだろうか。

 だが、世の人々の記憶に残るのは、今ネットで取り沙汰されている、そのたった1試合での“仕打ち”だけだ。最終戦を終えたカブレラが、出口で待ちかまえていたロッテファンから大拍手で見送られたエピソードをネットから探し当てることはできない。敬遠という手段で記録を阻止するやり方をファンは絶対に喜ばない。プロ野球が興業であるという自覚があれば、ファンが喜ばないことはしないものだ。

 そうなると俄然興味が湧いてくるのは、3回が3回、全てに関与している王監督の真意である。

 特に01年にコミッショナーから警告を受けたにもかかわらず、翌年も同じことを繰り返したのはなぜなのか。02年の場合は若田部に10勝目がかかっていたし、前年ほど露骨でもなかったが、やはり観戦していたファンには明らかに敬遠だとわかるものだったことは間違いない。

 この当時は、中内功ダイエー会長がリクルートからスカウトした再建請負人・高塚猛氏が福岡3点事業の責任者だった時代だ。閑古鳥が鳴いていたホテルや球場を、またたく間に満員にした手腕に対する評価は、当時の経済誌の誌面を賑わせたが、その後の彼の失脚で今となっては顧みられる機会がなくなっている。

 だが、パ・リーグの球団改革の先駆者は間違いなく高塚氏である。誰よりもプロ野球がエンターテイメントであることを知り尽くしていた高塚氏なら、56号が出るかもしれなかった日、花束を用意させ、56号が出たら王監督自身からローズもしくはカブレラに手渡す演出を考えなかったわけがない。

だがそれは実現せず、王監督も敬遠を止めなかった。この行動は王監督にとって何一つ良いことがない。敬遠などせず、めでたく56号が飛び出し、王監督自身が花束を持って外国人選手をねぎらう。こんなことが実現していたら、人格者としての王監督の評価はますます上がり、その映像は繰り返し何度も何度も放映され、後世に語り継がれる美談となったはずなのだ。

 それを王監督が理解していなかったわけがない。ファンが喜び、球団経営上もプラスに作用し、王監督自身の評価も上がる。誰もが幸福になる選択を王監督はなぜしなかったのか。自分の記録を破られたくなくて汚いマネをしたセコイ奴。そういう評価が付いて回ることは承知の上だったはずだ。

 とすると、考えられるのは、「記録はさまざまな妨害を乗り越えて達成するもの」というトップアスリートとしての哲学の全うである。経営者にも大衆にも、メディアにも迎合してたまるかという強い思いが根底にあるのだとすればすとんと腑に落ちる。
 

●五輪招致への影響

 さて、それでは今回、バレンティンもまた妨害に遭うのだろうか?

 とにかくバレンティンは過去の3人に比べて残り試合数が多い。50号を超えてくると俄に周囲も騒がしくなるだろうし、プレッシャーもかかってくるだろうが、53号あたりで残り試合数がまだ20近くある、という可能性もある。全日程が終了するまで延々と敬遠が繰り返されるということは考え辛いし、第一、ローズやカブレラの時も、ダイエー以外の球団は敬遠攻勢をかけていない。そのダイエーですら敬遠攻勢をかけたのはたった1試合だ。

 ヤクルトのスケジュールを追ってみると、16試合目は9月14日の阪神戦。18試合目は917日の横浜戦である。横浜にはバレンティンと本塁打王を争うブランコがいるし、監督は巨人OBである。作戦として敬遠攻勢がかかってもおかしくないのはこのあたり。ちなみに巨人戦は14日以降では24日までない。

ファンはまた同じことが繰り返されないか、固唾をのんで見守っているわけだが、今度ばかりは別のところへの影響も考えざるを得ない。ずばり、五輪招致への影響である。総会の開催は9月7日である。記録更新が絡む時期はこの1週間後とはいえ、9月7日時点で50本を超えていると、著名人が不用意な発言をする確率は格段に上がる。

BusinessJournal編集部

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